本会議 一般質問 二〇〇六年三月二日

植木こうじ(中野区選出)

地震の被害を最小限に抑えるため、個人住宅、共同住宅、グループホームなどの耐震化を

いそがれる、エレベータの復旧対策、帰宅困難者対策などの都市型災害への対応

個人住宅の耐震化を

 近年、マグニチュード七から八規模の大地震が次々と発生し、日本は地震の活動期に入ったといわれ、地震対策は文字どおり待ったなしの課題となっています。
 そこで、地震の被害を最小限に抑えるための課題に絞って提案するものであります。
 まず、住宅の耐震化ですが、住宅の倒壊から人命と財産を守るための取り組みは、全国の自治体で耐震改修制度や家具の転倒防止など先駆的な取り組みが開始されており、東京都もこれにおくれることなく施策を拡充することが必要です。
 都が来年度から国の制度を活用した木造個人住宅の耐震補強に踏み出すことは、一歩前進です。しかし、対象が木造住宅密集地域に限られ、しかも、倒壊により道路を閉鎖するおそれのある住宅とされているように、実際に利用できる人は限られています。
 現在都内には、一九八一年の耐震基準改正以前に建てられた戸建て木造住宅は約百三十万戸に上り、そのうち、耐震工事をしていない木造住宅は百二十万戸にも及んでいます。
 この点で、地震多発地帯であるアメリカのシアトル市が行っている、災害に強いまちづくり作戦と呼ばれるプロジェクトが参考になります。これは、個人住宅の補強、学校などの公共施設の耐震化を初め、重点項目を掲げ、市が対策を進めているものです。このうち個人住宅の補強は、住宅の基礎と家屋を大きなボルトでとめたり、柱や壁の傷んだ部分を取りかえたりといった範囲で耐震補強を行うものでありますが、二〇〇一年に発生したマグニチュード六・八の大地震の際にも、補修を終えていた二百五十軒の住宅はほとんど被害を受けず、対策の効果が実証されたといわれています。日本の場合と住宅のつくり方などは違いますが、参考となるものです。
 現在、国制度にとどまらず、独自の予算で何らかの耐震助成に踏み出しているのは、十五県二十八区市町村に広がっています。
 知事、地震による倒壊の被害ははかり知れないものがあります。失われる人命と経済的損失を考えるならば、木造住宅密集地域以外の旧耐震基準の一般の戸建て住宅の倒壊を防ぐ対策が急がれていると考えますが、いかがですか。

共同住宅、集合住宅の耐震化を

 次に、木造住宅、木造アパートなどの賃貸もしくは共同住宅の対策です。
 現在、旧耐震基準で何らかの耐震補強が必要とされる木造賃貸住宅は、都内に二十一万棟以上も残されています。その多くは個人が経営するもので、改善は進んでいません。ある資産活用のホームページでは、旧耐震基準の木造アパートについて、危険な家屋といわざるを得ないと指摘しています。
 こうした中で、中野区は来年度から木造共同住宅への支援をスタートさせる予算案を提案しています。都としても、既存不適格といわれる旧耐震基準時代の木造賃貸住宅の耐震診断、耐震補強を促進する仕組みづくりが急がれていると思いますが、どうでしょうか。
 また、住宅建設関係者は、自治体の支援が不人気なのは、補修を急ぐことの利点が見えにくいのが一因として、耐震補強を行った住宅の減税を行うなどのインセンティブを与えることを提案しています。
 そこで、耐震補強の誘導策として、防災対策を実施した住宅の固定資産税を減免することが考えられますが、見解を伺います。
 高齢者や障害者のためのグループホームがふえています。しかし、これらの人は、地震で家が倒れたり火災が発生したときには逃げ出すことができず、多数の被害者を出す危険性があります。本年一月、長崎県で認知症高齢者のグループホームの火災が発生しましたが、その防災性について改善すべき課題があることが指摘されています。
 都として、グループホームの耐震性、防火性について何らかの対応をとるべきと考えますが、いかがですか。
 グループホームで生活する人たちは、自力で自分を守ることは困難です。グループホームで生活する災害弱者のために、災害時の都、区市町村による公助、地域、ボランティアなどによる共助のシステムづくりが欠かせないと思いますが、答弁を求めます。
 マンションの耐震構造偽装事件の再発防止が急がれています。そのため、構造設計士の資格を国家試験とすることを国に求めること、中高層マンションの設計を客観的に審査する第三者機関を都として設置することを提案するものですが、いかがですか。

エレベータの復旧対策を

 次に、高度に都市機能が集中している東京などの場合の都市型災害の対応についてです。
 第一に、エレベーターの安全問題ですが、この問題では、新潟県中越地震や千葉県北西部地震などで、長周期地震動による六本木ヒルズのエレベーターの機能停止、マンションなどでの閉じ込めなど、便利であるが災害時には危険な乗り物となりかねないエレベーターの問題が浮上しました。
 超高層住宅ビルや高齢者が多く居住する公共住宅などのエレベーターの復旧は敏速な対応が求められます。そのため、エレベーター協会は、災害時のエレベーターの復旧のための車両については、他のライフラインと同様の緊急車両扱いすることを強く要望していますが、これに積極的にこたえることを提案するものであります。
 また、エレベーター協会や業界と連携して、マンション管理人、オフィスビル管理者、防火管理者などが、緊急時に閉じ込められた人を救出できるように、講習、訓練を実施することなどが急がれています。

いそがれる帰宅困難者対策

 帰宅困難者の対策も極めて重要です。多摩地域や近県から都心に通勤する通勤都民の場合、家までの距離が離れていることから、帰宅途中の休憩や宿泊、必要な食材、飲料水を調達すること、安全な場所から各自の家までの運送などが、安全な帰宅を保障する上で欠かせません。
 しかし、帰宅の経過地となる自治体は、自分のところの住民の救済だけで手いっぱい、通過する帰宅困難者まで面倒を見る余裕はありません。ある区の防災担当者は、オフィス開発で昼間人口がふえ続けているので、帰宅困難者まで把握するのは困難、東京都が責任を持つべきだと訴えています。基礎自治体には滞在者の安全について責務を負わされていますが、地元住民の救済だけで手いっぱいとなることは目に見えています。
 東京だけで三百九十二万人発生するといわれている帰宅困難者を安全に帰宅できるようにすること、職場に踏みとどまって頑張る社員の安全と生活を守ることは、広域行政としての東京都が第一義的な責務を負っていると考えますが、いかがですか。
 また、都が帰宅困難者が通過する自治体と協定を結び、都が財政負担も行うことで、帰宅困難者のための食料や飲料水、情報提供などを行えるようにすることが必要だと考えますが、いかがでしょうか。
 安全に早く帰宅できるようにするために、都として首都圏のバス会社や輸送業者と協定を結び、安全の確保ができた周辺主要駅や周辺地域の防災拠点から遠隔地までのシャトルを運行することは有効な方法と思いますが、どうでしょうか。
 山手通りと環状八号線の間の帯状のスプロール地域に広域の大規模防災拠点を確保し、帰宅困難者のための仮設の仮眠・休憩施設や備蓄倉庫を設置することなどは、広域行政としての東京都の仕事の一つだと考えますが、答弁を求めます。
 また、中野駅前の警察大学校移転跡地についても、この大規模防災拠点として利用計画を見直すことを強く求めておくものであります。

最近の地震科学の成果や研究を踏まえた「地域防災計画」を

 最後に、地域防災計画について伺います。
 関東平野に地震が集中する原因として、最近の調査や研究の成果から、複雑に入り組んだプレート構造に加え、地下に眠る幾つもの活断層、新潟県から関東に抜ける深さ千メートルから五千メートルに及ぶ大きな帯状の陥没地帯と、その上を覆う不安定な堆積層があることが指摘されています。このため、その中心に位置する東京を襲う地震は、関東大震災のようなプレート型の被害、阪神大震災のような直下型の被害、さらには、東京から遠く離れた東海沖地震での長周期地震動の被害など、他の地震からは想像できないような、複雑で巨大な破壊力を持ったものとなることが予想されています。
 知事、都がことしじゅうに策定するとしている地域防災計画は、国や都の被害想定を踏まえるのは当然ですが、今指摘したような関東平野の特殊な地震特性を踏まえること、また、長周期地震動や側方流動などの最近の地震科学の成果や研究を踏まえたものとすることが必要であると考えますが、答弁を求め、私の質問を終わります。

【答弁】

〇知事(石原慎太郎君) 植木こうじ議員の一般質問にお答えいたします。
 最新の地震学を踏まえた地域防災計画の見直しについてでありますが、最新の地震学とはいえ、地震学というのは非常に困難な分野でありまして、まだまだ未知の知見がたくさんございます。
 今回の被害想定は、日本で有数の地震学や建築学などの専門家により、最新の地震学の成果などを踏まえて予測したものであります。例えば震度についても、阪神・淡路大震災や十勝沖地震などの実際に起こった地震をモデルとして、断層の破壊により出されるエネルギーを計算し、地盤の揺れやすさを加えて算出しております。
 このように、今回の被害想定は、最新の知見を用いてあらゆる角度から詳細な検討を行ったものであります。
 他の質問については関係局長から答弁いたします。

〇都市整備局長(梶山修君) 四点のご質問にお答えいたします。
 まず、木造住宅密集地域以外の住宅の倒壊防止対策についてでございますが、住宅の耐震性の向上は、自助、共助、公助の原則を踏まえ、所有者によって行われることが基本でございます。
 しかしながら、木造住宅密集地域のうち、建物の倒壊による道路閉塞を防止するなど公共性が高い地域につきましては、より一層の耐震化の促進を図る必要があるため、耐震診断・改修に関する助成制度を創設することといたしました。
 次に、新耐震基準以前に建てられました木造賃貸住宅の耐震化についてでございますが、今ご答弁いたしましたとおり、今回創設する制度は、木造住宅密集地域のうち、建物の倒壊による道路閉塞を防止するなど公共性が高い地域について、耐震診断・改修に関し助成するものでございまして、こうした地域におきましては、当然、木造賃貸住宅も対象としております。今後は、区と協力して本制度の定着を図り、一層の耐震化を促してまいります。
 次に、構造計算書偽装事件の再発防止策についてでございますが、今回のような問題の再発を防止するためには、確認検査制度全般にわたる徹底的な検証と見直しに取り組む必要がございます。
 都は、建築行政の現場に携わる立場から、国、特定行政庁及び指定確認検査機関の役割と責任の明確化、建築士制度の見直し、さらには構造計算書等の第三者によるチェックの仕組みなどについて、既に国に要求してきております。今後とも、建築物の安全性の向上に努めてまいります。
 最後に、エレベーターの閉じ込め対策についてでございますが、現在、国の社会資本整備審議会におきまして、エレベーターの地震防災対策が検討されております。この中で、保守管理者以外の建物管理者等が閉じ込められた人を救出できるよう講習を実施するなど、救出体制の整備を図ることが検討されております。
 今後、この結果を踏まえ、国等と連携しながら適切に対処してまいります。

〇主税局長(菅原秀夫君) 耐震補強に係る固定資産税の軽減措置につきましてご答弁を申し上げます。
 現在、国会で審議中の地方税法の改正案によりますと、自発的な耐震改修を促すことを目的といたしまして、平成十八年度から十年間に限りまして、固定資産税を原則として三年間二分の一に軽減する措置を創設することとされております。

〇福祉保健局長(平井健一君) グループホームの防災対策に関しまして二点のご質問にお答えいたします。
 まず、認知症高齢者グループホームの防災対策についてでございますが、都は、事業開始の際の届け出におきまして、建築基準法による検査済み証の添付を求めており、これによりグループホームの耐震性や防火性につきましては確保されているものと認識しております。
 また、従来から、事業者に対する開設支援セミナーやグループホームの管理者研修などにおきまして、防災体制の確保について指導を行ってまいりました。これらに加えまして、今回の長崎県での火災を受けて、直ちに、グループホーム管理者に対しまして、防火管理について再度の点検を実施するよう通知したところでございます。
 なお、国においても、本年四月の介護報酬改定において、夜勤体制を義務づけるなど、安全確保のさらなる強化を図っておるところでございます。
 次に、災害要援護者対策についてでございます。
 グループホームに暮らされます高齢者など災害要援護者に対する災害対策は、従来から、区市町村が中心となり、啓発活動や安全確保策などを行ってきております。
 都は、これらの方々の安全確保のため、地域住民や民生・児童委員などの協力を得まして、平常時から所在の把握や災害時におけるボランティアによる見守りなども含め、災害時の要援護者対応に関する指針を示し、区市町村に対し、その取り組みを支援してまいりました。
 区市町村においては、この指針を踏まえながら、地域の実情に応じた適切な対応が図られているものと考えております。

〇総務局長(高橋功君) 防災に対する五点のご質問にお答えをいたします。
 まず、エレベーター保守車両に対する緊急車両の指定についてでございます。
 今回の被害想定で、都は初めてエレベーターの閉じ込め台数を予測いたしました。その結果、マグニチュード六・九でも、閉じ込めは七千五百台に上ることが明らかとなりました。既に、昨年の千葉県北西部地震を踏まえまして、都においては、救出救助体制や設備の改善など、閉じ込め対策について関係機関と協議を行っておりますが、今回の想定も踏まえまして、今後、総合的に検討してまいります。
 次に、帰宅困難者に対する都の責務についてでございますが、災害対策基本法におきましては、地域の居住者、滞留者及び通過者に対する保護、避難誘導等を行うのは区市町村の役割としております。一方、帰宅困難者が的確な行動がとれるよう情報を提供するなど、広域的な支援は都が行うものとされております。こうした役割分担に基づきまして適切に対処してまいります。
 次に、帰宅困難者に対する食料、水など都の支援についてでございますが、既に都は一定の食料を備蓄するとともに、飲料水につきましても、飲料水業界との協定によりまして確保に努めております。また、都立学校に加えまして、ガソリンスタンドやコンビニエンスストアなどを帰宅支援ステーションに指定し、徒歩帰宅者に対し、水、トイレ、情報を提供することとしております。
 今後とも、帰宅困難者に対する支援に努めてまいります。
 次に、帰宅困難者の輸送方法についてでございますが、都は既に、東京バス協会と契約し、災害時の代替輸送手段を確保しております。この契約では、都の要請に基づき、指定した場所にバスを配車することとなっております。このほか、船舶業界などとも協定を締結しており、今後とも代替輸送手段の確保に努めてまいります。
 最後に、帰宅困難者のための休憩施設や備蓄倉庫等の設置についてでございます。
 ご指摘の地域は、今回の被害想定でも火災の延焼による被害が大きいとされておりまして、また、地域の住民の方の救出救助が最優先されますことから、発災直後に帰宅困難者が立ち寄ることは適当でないと考えております。
 帰宅困難者は、むやみに移動を開始せず、事業所等にとどまってもらうことを原則としておりまして、安全確認後の帰宅に際しましては、都立学校やガソリンスタンド、コンビニエンスストアなどの帰宅支援ステーションで支援を行ってまいります。

以上