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文書質問趣意書

貧困と格差の広がりに新たな住宅対策を

2007年10月3日
植木こうじ(中野区選出)

 今日、構造改革路線のもとで広がる貧困と格差が大きな社会問題になり、それは住宅政策の分野でも新たな対応が迫られる事態になるなど、もはや、避けてとおることのできない状況になってきています。
 日本の貧困と格差の広がりについて、国連の「2007アジア太平洋経済社会報告」では「経済回復にもかかわらず」「国民所得における雇用者所得の比率はこの5年間減り続けている」として特に、25歳から35歳の若年層について賃金所得のジニ係数が94年の0.22から05年の0.25に上昇したとして、低賃金の非正規雇用者の増加によるものであると指摘しています。

 厚生労働省の調査で明らかになったネットカフェ難民問題はこの貧困と格差がもっとも端的に現れたものとして注目をあびました。
 調査では、住宅喪失者が全国で5400人におよび、うち東京23区内には約に2000人といわれている。そのうち、非正規労働者が1400人もおよび、正規社員すら住宅喪失者になっていること、この背景には不安定就労者や低賃金の問題があることを指摘さえしています。
ネットカフェ難民に加えて、24時間営業の漫画カフェやマグドナルドなども含めると住宅喪失者はさらに増えることは間違いなく、働いている人々でさえ住宅を喪失するという極めて重大な問題になっているのです。

 高齢者もわずかばかりの年金で生活している方々に、老年者控除の廃止や課税水準の引き下げ、介護保険料の引き上げが相次いでいる上に、来年からの後期高齢者医療制度など負担の増大に悲鳴の声が上がるなど生活実態が大きく変化しています。こうした中で、現役時には払えた住宅家賃が払えなくなるなど高齢者の公営住宅への要求も強くなっています。

 こうしたなかで、特別区議会議長会が来年度予算に関する要望書で「民間賃貸住宅において貸主が入居制限などをおこなうことにより、住宅に困窮する低所得者・高齢者・障害者等が存在する。」「公営住宅への入居希望者は依然として多い。大都市の実情に即した公営住宅計画に改善し、公営住宅の建設促進を図られたい。」と異例の要望書を提出しました。

Q1 知事、こうした貧困と格差の広がりのなかでネットカフェ難民のみならず、住宅に困窮する幅広い低所得者や高齢者・障害者が存在し、強い住宅要求が新たに広がっていることをどう受け止めておりますか、お答えください。

 ところが、石原都政はこうした時代の変化に対応するのでなく「住宅市場の構造改革」だと住宅ビックバンを打ち出しました。
 その後、「住宅供給における公的主体の役割を強化」するとうたっていた「東京都住宅基本条例」そのものを改定し、従来、公的住宅の建設を中心とした直接供給政策を根本的に転換し、これからは住宅政策の基本を民間の住宅供給への支援にするとして、「市場」の活用やストックの活用重視の方向を打ち出してきたのです。
 これらは、日本経団連が住宅政策提言で、「住宅は足りている」、これからは「個人が住宅を占有」するのでなく「住み替え、住み継ぐ」ものに変えなければとあからさまに述べ、民間活力による住宅建設をうながしたように、政府、財界が一体となってすすめてきた住宅分野の構造改革路線と機をいつにするものです。
 そもそも住宅ビックバンなど住宅の構造改革は、官から民へ自己責任論を進めるもので既にイギリスのサッチャー政権が失敗した構造改革の二の舞です。
 先の参院選でも示されたように安倍(自・公)政権が進めてきた構造改革路線が、あらゆる分野で破綻が明らかになり、自・公政治そのものが行き詰まってきました。にもかかわらず、東京都がこれまでどおりの住宅政策における構造改革路線を引き続き進めることは問題です。

 知事は、都内の住宅戸数は充足している、新たな公的住宅の供給は必要なくなったと新規建設を中止しました。しかも、やることといえば年間3000戸の建て替えと、老朽化した住宅の改善工事にとどめ、大規模団地の建て替え事業については、敷地の有効活用を口実に容積率を高めた高層住宅や、一定規模以下の団地を「非建替え団地」と選別化して、団地住民を移転させ、浮かした土地をもっぱら「都市再生」など街づくりに提供してきた。
 都営住宅の新規建設を一切打ち切って抑制してきたため、住宅への拡充要求は年々増え続けているのです。都営住宅の空き家募集の倍率は石原知事が就任した1999年には11.6倍だったのが2006年には55.1倍と平均競争率がわずか7年間で5倍にもなったのです。全国の平均倍率と比べても十数倍にもなるなど、東京では住む場所に困っている人が確実に増えているのが実態です。
結局、石原知事が進めてきたのは、財界や大手住宅ディベッロッパーの立場に建って、住宅に困っている都民の声を無視し続けてきた8年間で、もはや許されなくなってきているのです。

Q2 こうした民間ディベロッパーによる住宅供給を基本とする構造改革路線を改めて、「住宅は人権」という立場にたって貧困と格差の新たな事態に対応して低所得者、高齢者、子供を育成する家庭などへの対応を行うよう求めるものです。

Q3 さらに住宅供給計画において、「住宅が国民の健康で文化的な生活にとって不可欠な基盤」という立場に立って、「住宅の確保に特に配慮する」ために、公営住宅の新規建設に踏み切るべきです。それぞれ、お答えください。

 住む場所に困っている人々の状況も多岐にわたるようになって新たな具体的な対応が求められています。
その一つが、ネットカフェ難民やホームレスへの対応の問題です。ネットカフェ難民は、非正規労働者や正規社員が住宅喪失者になるなど不安定就労者や低賃金の実態の反映があります。年齢も25才代が3割近く、55才代も2割以上になるなど働きざかりが多いことも問題です。

Q4 住宅を喪失したきっかけは「仕事をやめた」ことが原因の多くを占めていますが、いったん住居を喪失すると入居の初期費用がない、家賃が安定的に払えない、保証人がいないなどで新たな住宅確保が困難になるのが特徴です。仕事の確保への支援や低賃金の解消と同時に、居住支援として入居時の保証金や保証人対策、家賃への支援など賃貸契約への支援を行うとともに、緊急入居できる住宅提供など総合的な支援策を提案しますが、答弁を願います。

Q5 また、ホームレスも倒産や仕事がなくなったことがきっかけに住宅やアパートを出なければならなくなった人が68%に及んでいます。仕事確保への支援を行うと同時に居住継続のための家賃助成や緊急入居への支援が引き続き必要ですがどうか。

 住宅難民はネットカフェ難民に限らず、リストラや病気などでとたんにそれまでの生活が狂ってしまうケースや、年金生活になって住宅費の負担割合が増えるなど住宅の困窮度が増すケースが広がっています。
 各区市町村で、住み替え家賃助成や新婚・子育て世代、高齢者、障害者などの家賃助成に努力していますが、基本は各自治体の定住者対策が中心で、今求められている住宅困窮者に対して住宅セーフティネットとしての家賃助成になっておりません。民間住宅への入居拒否の解消をうたった住宅セーフティネット法でも、「憲法25条の趣旨が具体化されるよう」にという文言が加えられたように、そもそも民間住宅にさえ自力では入居できない、或いは、公営住宅への入居資格がありながら入居できない人々に家賃助成を行うことが必要になってきているのです。

Q6 東京都は「家賃助成は典型的な所得再配分政策であり、国と一体となって検討すべき」と消極的ですが、知事は「国がやらないなら」と常に言っているように都民の生活基盤を確保するためにこそ東京都が力を発揮すべきです。新たな貧困と格差の広がりへの対応として、少なくとも都営住宅入居基準内の収入の人への家賃助成に踏み切るべきです。お答えください。

 さらに問題なのは、都営住宅の使用承継について、従来、1親等まで認めていたのに、国の通達に基づいて原則、配偶者に限定したため、高齢者、障害者など例外規定はありますが、障害や健康の問題があっても住宅の承継ができず高い家賃の民間住宅に移らざるを得なくなる事態が生じると、多くの不安を抱えた方々から訴えが寄せられています。
 障害者で言えば4級、5級の知的障害者は承継の対象外ですから親が亡くなると、退去猶予期間を3ヶ月から半年に延ばしたとしてもパニックになってしまいます。ある女性は、「私が死んだら、知的障害で愛の手帳4の子はどうしたらよいのか」と訴えています。
また、2級の精神障害者のお子さんを持つAさんは、「精神障害者は一級の人しか入居できない、娘は身の回りのこともできず、働きに出ることもできないし、薬を飲んでいても幻聴が毎日のように起きます。親が死んだら野垂れ死にするしかありません。精神障害者は、生きる価値もないというのでしょうか。」と連綿と手紙で訴えてきました。

Q7 都営住宅担当者は相談窓口で福祉の窓口を紹介します、と述べて平然としていますが、保健福祉局にいったら、住まいが見つかるまで丁寧に斡旋してくれるのでしょうか。また、「新たに都営住宅の応募を申し込めばよいではないか」とも言いますが、申し込んで入れなかった場合は、見つかるまで都営住宅に住まわせてくれるのでしょうか。軽度の障害者でも民間アパートに頼んでもなかなか入れないのが実態だということをどう理解しているのでしょうか。お答えください。

Q8 障害者等について何故、課税対象であるかないかを基準に規定を設けたのか、その理由を明らかにすべきです。

Q9 障害者は障害の程度によってだけで生活実態が判るわけではないので、「特に居住の安定を図る必要のある者」という立場にたって一律に線引きすべきではありません。それぞれ、答弁を求めます。

 このように、「使用承継の厳格化」によって退去を迫られる者の中には高齢者や障害者、難病患者などが少なくなく、高い家賃の民間住宅に移ることになれば居住の安定を著しく阻害され生活自体が立ち行かなくなることが予想されます。

Q10 だからこそ、全国では、通知に係わらず、従前の承継制度を継続する自治体も多く、親が死んで悲しんでいる子供を追い出すことはできないとして実施を中止する自治体も多くあります。これが人間として当たり前の判断ではないでしょうか。居住の安定を図るためにも、親が死んで悲しんでいる子供を追い出すような非人間的な使用承継の改定は直ちに見直すべきです。

Q11 同時に、国及び政府に対して、公営住宅の使用承継に関する国土交通省住宅局長通知および、住宅総務課長通知の撤回を求めるべきと思うが、それぞれ見解を伺います。

Q12 さらに、政府は公営住宅法施行令の一部改定で、2009年4月から収入基準について政令月収20万円だったのを、15万8000円に引き下げるとしています。これは、これまで収入基準以内だった家庭がいきなり収入超過者となる世帯がふえることになります。住み続けるには近傍同種家賃をはらうことになるが、家庭の実情によっては家賃が払えなくなる人が出かねません。こうした事態を避けるためにも国に対して実施の撤回を求めるべきと思うが、お答えください。

 最後に、東京都が目玉政策として「活力ある地域社会の形成への寄与」と称して都営住宅用地を民間住宅ディベロッパーに提供する問題について指摘します。

Q13 南青山都営住宅用地の半分を民間に提供して建てた超高級マンション青山1丁目タワーは、賃料が1u約1万円、50uで4〜50万円もするもので最大で350uもの住宅もあります。多くは外資系の会社などが賃貸契約を結んでいると都の職員が話していましたが、とても一般の都民の手が届かない文字通り超豪華マンションが建てられオープンセレモニーが華々しく行われました。
 都営住宅を建設しないで一般都民の入れない超高級マンションの建設を促進するために都営住宅用地を提供するのが都の進めるべき住宅政策といえるのでしょうか。
 こうした民間の住宅供給への支援を住宅政策の基本にすえるという東京都の住宅政策をいまこそ転換すべきことを改めて求めておきます。

以上

答弁

A1 都は、これまでも、都営住宅において高齢者や子育て世帯等に対する優先入居などを実施するとともに、入居制限を行わない民間賃貸住宅の供給促進などに取り組んできました。
 今後とも、公共住宅に加え、民間住宅も含めた重層的な住宅セーフティネットの機能構築に向けて取り組んでいきます。

A2 住宅が量的に充足し、民間住宅市場が発達した今日において、高齢者世帯の増加や家族形態の変化、居住ニーズの多様化に柔軟に対応し、都民の住まいの安心を確保するためには、福祉施策との連携・役割分担を図りながら、公共住宅に加え、民間住宅も含めた重層的な住宅セーフティネットの機能を構築していくことが必要です。
 今後とも、既存の住宅ストックを有効に活用し、住宅に困窮する都民の居住の安定の確保に取り組んでいきます。

A3 既に都内の住宅の数が世帯数を一割以上上回っており、さらに将来の人口減少社会の到来が見込まれていることなどを踏まえ、都営住宅については、新規の建設を行わずに、ストックを活用して、公平かつ的確に供給していきます。

A4 インターネットカフェ等で常連的に宿泊している方々に対しては、平成19 年第三回都議会定例会において答弁したとおり、その生活実態を踏まえ、的確な支援策を講じていきます。

A5 ホームレス対策については、都はこれまでも特別区と共同で、緊急一時保護センター及び自立支援センターを設置し、心身の健康回復や就業・住宅相談などにより自立を支援するとともに、地域生活移行支援事業において、地域での自立した生活への移行を推進してきました。
 ホームレスが早期に路上生活から脱却し、地域での自立が図れるよう、特別区と協力しながら支援に努めていきます。

A6 家賃助成については、生活保護制度との関係や財政負担のあり方など、多くの課題があることから、都として施することは考えていません。

A7 都営住宅の入居は公募によることが原則で、入居を希望している都民が多数いる一方で、長年にわたり同一親族が居住し続けることとなると、入居者・非入者間の公平性を著しく損なってしまうことから、今回の制度改を行ったものです。
 制度の実施に当たっては、福祉の窓口を紹介するほか、住宅供給公社、都市再生機構などの公共住宅の募集情報の提供等について、丁寧に対応しています。
 また、あらたな都営住宅の申し込みに際し、一定の級以上の障害者がいる世帯については 5 倍ないし 7 倍の優遇倍率が適用されるとともに、ポイント方式の募集に申し込むことができるほか、単身者も申込みが可能となっています。

A8 「特に居住の安定を図る必要がある者 jについては、適用に際して公平性を確保することが必要なことから、客観的な基準として、所得税法施行令において特別障者として認められている範囲を準用しました。これについては、改正前の制度でも同様の取り扱いをしてきました。
 なお、税法上の特別障害者控除を具体的に受けていない場合でも、受けられる対象となっていることが、障害者手帳や、原爆被爆者の摩生労働大臣認定等により確認できれば、使用承継を許可することができます。

A9 「特に居住の安定を図る必要がある者」については、適用に際して公平性を確保することが必要なことから、客観的な基準として、所得税法施行令において特別障害者として認められている範囲を、改前と同様に準用しました。

A10 都民が都営住宅の入居は公募によることが原則で、入居を希望している都民が多数いる一方で、長年にわたり同一親族が居住し続けることとなると、入居者・非入居者間の公平性を著しく損なってしまうことから、国のガイドライン等に基づき今回の制度改正を行ったものです。
 実施に当たっては、規則改正から施行まで一年間の猶予期間をおくなど、様々な配慮を行っており、今後とも適切な制度運用を図っていきます。
なお、他の道府県、政令指定市でも制度改正が進められており、国土交通省の調査では、平成 19 年 4 月 1 日現在で、その内 25 の自治体が、既に新制度を施行又は施行決定済みです。

A11 都営住宅の入居は公募によることが原則で、入居を希望している都民が多数いる一方で、長年にわたり同一親族が居住し続けることとなると、入居者・非入居者間の公平性を著しく損なってしまうことから、今回の制度改正を行ったものです。
 公営住宅の使用承継に関する国土交通省からの通知については、その内容が、都営住宅における入居者・非入居者間の公平性の観点から適切なものであるとともに、東京都住宅政策審議会においても、使用承継のさらなる厳格化を図るべきであるとの同趣旨の提言がなされていることから、撤回を求めることは考えていません。

A12 入居収入基準の見査しについて、国は平成 I8 年 8〜9 月にパブリックコメントを行った後、現時点、では政令改正を行っていません
 都としては、今後とも国の動きを踏まえて適切に対応していきます。

A13 都はこれまでも、都営住宅の建替えにより創出した用地について、地域のまちづくりに戦略的に活用しており、今後とも、地域の特性を踏まえ、区市町村と連携しながら有効に活用していきます。

以上