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文書質問趣意書

中小企業支援について

2007年12月17日
かち 佳代子(大田区選出)

 東京証券取引所第1部に上場する1200社の2008年3月期決算は、前期比では3兆円以上、10%増で、35兆円に迫る見込み、経常利益が5年連続で過去最高益を更新する見通しとの報道されました。
 このように大企業は好調ですが、中小企業はの経営は改善どころか、原油高騰の影響など深刻になっています。全国では2007年4〜9月期の企業倒産件数が、前年同期比中小零細を中心に23.5%増です。都内倒産件数は、月200件前後での推移していますが、4人以下の企業がその7割を占めています。また、都内の中小企業倒産件数を7月〜10月期を比較すると、昨年度よりも、約1割増加しています。倒産企業従業員数は、34%増。製造業が2割増。規模別に見ると、20〜50人程度の中小企業が、8割増と急増しています。

 現場では、「半日しか仕事をしてない」「今日は仕事がなかった」などという工場も多く見られます。また、統計数値にでてこない廃業というケースも多いわけですから、小零細企業の営業継続がきわめて深刻な事態にあることは明らかです。そこに、原油、原材料の高騰が追い打ちをかけています。
 原材料費の高騰のなかで、業者の方はできるだけ安い材料を見つけて納品しています。私たちも、大田区内の製造業者の方から話しを伺いましたが、業者の方の話では、「安い材料をさがすといっても、材料の品質が問題になって製品としての重大問題になったらいけない。材料の良し悪しは、製品の致命傷になりかねない。しかし、このまま『安くやらせる』傾向が続けば、技術の継承もできないし、中小企業はつぶれていくだけ。技術力が低下してしまう。材料の品質は、使う所によっては、重大な事故につながりかねない」「05年春ごろ、50%の値上げがあった。今は、3倍の値上げだ。こんなに上がったのは初めて。親会社は、我々のつくる部品を使って製品で出荷しているが、価格を製品に転嫁できないとして、結局われわれが泣いている」「リース代を払ってパート並にしか稼げない」と訴えていました。
 こうした深刻な事態をいつまでも見過ごしていれば、単に企業の存続の問題にとどまりません。東京、日本のものづくりの根底を揺るがす問題になります。

Q1 知事、日本のものづくりを支えている小零細企業の現在のこのような深刻な状況について、どのように認識しておりますか。お答え下さい。

 社団法人大田工業連合会が発行する「こうれん」2007年8月号に、「昨今の倒産事情」として、大田区の倒産事情が紹介されています。そこでは、「区内ものづくり企業の80%強が従業員が9人以下の零細企業である。それらの企業が直面する現況は、非常に厳しいの一言に尽きる」して、その懸念材料として、「原油高」と「石油関連製品を始めとした原材料費の値上がり」を上げています。その対策として「絶好調の親企業が下請けに求めているベスト3は、1に低コスト対応、2に高品質・高精度、3に短納期への対応である」と、切実な訴えを書いています。

 経済産業省の調査によると、都内中小企業製造業の54%が下請中小企業です。東京のものづくりを支えている小零細企業のこうした声に、東京都が今こそ真摯に耳を傾け、下請け企業が親企業と対等の立場で取引できるように改善していくことが必要です。

 そこで、下請け問題について提案します。
 業者の方は、「安くてつくれない仕事は、再見積の要求を出すが、もしそうすればもうその仕事は来ない」と訴えています。
 原材料の値上がりと同時に、現場を回って訴えられたのは「スクラップは一時440円から450円に上がったが今では130円だ。スクラップは製鉄メーカーにいき、原材料に替わって市場に流れる。製鉄メーカーは、原材料費の高騰、スクラップの引き下げと、2重に儲けている」ということです。

Q2 第1に、今こそ、不公正取引の告発ホットラインを設置するとともに、不公正取引について、中小業者が気軽に申告するように周知することを求めます。

Q3 第2に、都は業者から訴えが来るのを待つという受け身の態勢を取るだけでは不十分です。緊急調査隊をつくり、買いたたき・不当廉売・差別対価など業者のところにでかけ実態を把握するよう求めます。

Q4 第3に、その調査実態をもって、大手商社・大手荷主・元請け親企業などの大企業に対して、原材料費・燃料費の上昇分を中小・下請業者、物流業者などに一方的に押しつけないよう、厳重に取り締まるとともに、公正な取引価格を実現する緊急要請をすること。指導が必要なものについては、公正取引委員会とも連携して、強力に指導すること。

Q5 第4に、ガソリン、軽油、重油等の価格高騰の直撃を受けている中小業者にたいして、緊急の都民税減税措置を講ずること。以上それぞれ答弁を求めます。

 次に、都が現在おこなっている施策の改善提案についてです。
 2006年3定の私の一般質問にたいして「原油価格の高騰については、既に国による影響調査が行われており、都においても財団法人東京都中小企業振興公社が実施している、下請企業に対する取引支援のための企業巡回の中で、実情把握に努めています。また、都では、下請事業者団体や親事業者団体との間で、下請取引の適正化や中小企業に対する受発注状況などについて協議の場を設けています。今後とも、これらを通じ、情報収集等に努め、適切に対応していきます」と、回答しました。
 私たちは、下請け取引問題で困難な事態に陥っている業者をまわって、東京都のこのような取り組みが、原油高騰、原材料高騰に有効に機能しているかどうかをみてみました。
 東京都は下請け中小企業のトラブルを防止するために、下請け企業者が相談しやすい業界団体の役職員等に「下請取引適正化推進員」を委嘱し、下請代金支払遅延等防止法の普及啓蒙、下請け取引の一層の充実強化を進めるとしています。

 現在、14の業界団体の役員に下請取引適正化推進員を委嘱していますが、ここ3期(1期2年)を見ると、委嘱されている業界団体はまったく同一です。
 その委嘱先の一つの団体である蒲田工業協会をみますと、(株)バンダイナムコゲームスなどの大企業を初め、各地に何社もの支社をもつ中堅企業が中心となっている団体です。(社)日本金型工業会東部支部も委嘱先の団体ですが、こちらも都内に営業所がある会員数は70社にも満たないものです。その構成を見ても、会員の平均従業員は70人で、10人未満の小零細企業の会員は2割です。これでは、こうした団体は、実際の受発注においては、下請けというよりも、元請けになり、下請業者の実態を把握するには無理があ
ります。

Q6 地域の小零細企業などを参加させ、実態をその時々の時勢に合わせて随時、把握できる仕組みに改善すること。

Q7 当面、都が主催して、ものづくり集積地域で参加を広く呼びかけた意見交換会を開催し、実態把握すること。それぞれ、答弁を求めます。

 石原知事のもとで、商工指導所が廃止されました。商工指導所、中小企業振興センターにいた51名の経営指導職の専門職員は、今や半数以下になってしまいました。当時、経済環境の変化等により影響を受ける下請け企業に対し、巡回実地指導班を編制し、経営・技術両面から指導を行っていました。
 また、推進員との意見交換、推進員の所属業界の動向把握及び情報提供を目的にした下請け取引推進員協議会は、下請取引適正化推進月間にあわせて毎年11月、年1回しか行っていません。その参加者は、都から委嘱されている下請取引推進員だけです。
 これでは、「下請取引の適正化や中小企業に対する受発注状況などについて協議の場を設けています」といくら言っても、中身が伴いません。

 ものづくりの一番のすそのでがんばっている小零細企業の実態を反映できるような仕組みに改善する必要があります。現在、下請推進員を委嘱されている業界団体も、わずかに14団体にすぎませんので、都内の下請け事業所を網羅しているものではありません。今、業界団体等は会員離れで悩んでいるのが実情で、業界団体等との関係だけで、業者の実情を把握するには無理があります。
 地域、業界など網の目で、下請け取引の実態などを東京都が把握するためにも、現状の体制を抜本的に改める必要があります。
 大田区内の業者の方は、自ら実態調査を行って大田工連、蒲田工連などに、問題解決の要望をしています。

Q8 経営指導職を倍増するとともに、その専門職員の育成を計画的に進めること。そうした専門職の職員が現場に直接足を運び小零細企業の実態を把握して、下請取引改善など都の施策に反映する体制をつくること。答弁を求めます。

Q9 東京都産業基本戦略には、下請取引問題はまったく出てきません。これでは、都内製造業の54%の下請取引事業所は、東京の基本戦略から除外されたと思われてもしかたありません。下請取引問題改善を都の重要施策に位置づけるよう求めます。答弁を求めます。

回答

A1 東京のものづくり産業を担う中小企業は、高い技術力と競争力を有しており、その果たすべき役割は極めて重要です。
 しかしながら、都内の中小企業を取り巻く経営環境は、最近の原油、原材料価格の高騰や国際競争力の激化、後継者不足など、大変厳しい環境にあると認識しています。

A2 都は、財団法人東京都中小企業振興公社に下請相談窓口を設置し、各種広報誌やホームページを通じて、広く周知するとともに、下請取引についての苦情相談等を実施しています。
 また、受発注開拓を行う企業巡回の際にも下請企業や親事業者に対し、下請取引に関する書面の交付義務等の遵守事項について普及啓発を行っています。
 さらに、苦情紛争処理委員会を設置し、親企業と下請企業との調停・あっせんを行っています。

A3 都は、これまでも受発注開拓を行う企業巡回において、下請企業や親事業者に対し、下請取引に関する遵守事項等について普及啓発するとともに、企業の現状を聴取するなど実態把握に努めています。

A4 都は、下請企業が相談しやすいよう、下請関連業界の役職員に下請取引適正化推進員を委嘱し、法制度の普及啓発や苦情等の収集を行っています。
 加えて、平成19年11月には、親事業者で構成する主要業種団体と公正取引委員会など国も参加した主要業種団体協議会を開催し、原油等の価格上昇に伴う下請事業者への配慮等を行うよう、要請を行いました。
 さらに、平成19年12月には、下請代金の減額や買いたたきの禁止等、下請代金支払遅延等防止法を遵守するよう、主要業種団体に要請するとともに下請取引適正化推進員に周知を図りました。

A5 ガソリン等の価格高騰の影響を受けている中小企業に対して、都民税の軽減措置を講ずることは考えていません。

A6 都は、下請企業のトラブルを防止するため、下請企業が相談しやすい業界団体の役職員に下請取引適正化推進員を委嘱しています。
 同推進員は、下請代金支払遅延等防止法の普及啓発や苦情等の情報収集などを行うとともに、公正取引委員会など関係機関への連絡を行っており、今後とも、現行制度を最大限活用して下請取引の適正化を図っていきます。

A7 都は、財団法人東京都中小企業振興公社の企業巡回、下請相談等や業界ごとに委嘱した下請取引適正化推進員との情報交換を通じ、下請企業の実態を把握しています。

A8 従来、商工指導所等の経営指導職が行っていた経営相談業務等については、財団法人東京都中小企業振興公社において、中小企業診断士の資格をもつ公社職員や中小企業経営、法律などの専門家を確保・活用して効果的かつ効率的に推進しています。
 また、都は、これまでも同公社の企業巡回、下請相談や下請取引適正化推進員を通じ、下請企業の実態を把握しています。

A9 「東京都産業振興基本戦略」では、施策展開の方向性として下請企業のための取引改善指導など、中小企業の経営安定の支援を行うこととしています。
 さらに、この基本戦略を具体化するため、今後3 年間で重点的に推進すべき産業振興策と主な取組をとりまとめた「東京都産業振興指針」を平成19年12月に策定し、下請取引の適正化に向けた体制強化や、受注・発注情報の提供など、下請企業への支援策を明記しました。

以上