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文書質問趣意書

「都立高校改革」と進学指導について

2008年3月26日        
清水ひで子(八王子市選出)

 私はこれまで「都立高校改革」にもとづく、普通高校や専門高校、定時制高校などの統廃合による子どもたちへの影響などについて文書質問で指摘してきました。今回は、進路指導重点校の問題で、生徒の心が傷つけられている実態について質します。
 都は、「都立高校改革」の1つとして「長期低落傾向に歯止めのかからなかった都立高校の進学実績の向上にむけて」として、「過去の進学実績、学力検査問題の自校作成、進学対策の状況などを総合的に勘案し」、2001年以降、日比谷、戸山、西、八王子東、青山、立川、国立の7校を進学指導重点校に指定しました。そして昨年4月、これらの取り組み状況報告を公表しました。この「報告書」は、各校の取り組み状況とともに、東大、東工大、一橋大、京大の国立4大学や国公立医学部医学科、早稲田、慶応、上智の私立大学をことさら強調して取り上げ、高校別の各大学の合格者数、現役合格者数などが掲載されています。

 これに関連し、都立高校の保護者などから問題を指摘する声が寄せられています。
 例えば、現在3年生のある都立高校生は、国公立志望でT大を受験しましたが、不合格だったそうです。いわゆる「模試」の結果ではE判定で、受験しても到底合格の見込みのない状態だったそうですが、学校では、一段上の目標に向けさせて学力向上を図るということでT大を勧め、「本人もその気になってしまった」そうです。親御さんとしてはリスクが大きすぎると思いましたが、子どもが学校を信頼している様子から、強いて断念させることはしなかったとのことです。

 しかしこの親御さんは今回、進路指導に関するお子さんの学校の実績を改めて見て、愕然としたそうです。余りにも難関校に多く受験させ浪人を出している、また不本意な私大進学に回っている、たとえばT大への合格率は、3分の1どころかそれ以下となっているとのことです。「実力不相応に難関校を受験させ、あわよくば現役合格の絶対数を多くしたい、という意図がありありで、実際には過大なリスクを生徒父兄に負わせ、結果的に子どもたちの心を傷つけている」と、訴えています。
 ある高校の「経営計画」をみると、「現役進学者における3学年当初の高い第1位志望決定率55%以上」、「国公立大学合格者数(現浪)150名」、「センター試験受験者のうち5教科7科目型受験者数200名」、「センター試験の5教科7科目型(900点満点で)、平均700点」などと、数値目標をかかげてとりくんでいることがわかります。都教委の「報告書」でも、各高校の数値目標と達成度が一覧で掲載されています。
 学校が具体的目標をもつことは大事かもしれませんが、こうした数字がかかげられることで、教員、生徒がこれに向かって走らされていくことは明白です。こういう中で、生徒本人の希望を大切にした進路指導やその生徒の成長よりも、とにかく数値目標の達成が重視され、前に述べた学校の場合、目指す学校像「自らの力で伸びようとする生徒」とも異なる方向に向かうこともあり得るのではないですか。そこで伺います。

Q1 進学指導重点校で、実力以上に難関な受験を子どもに押しつけていることは事実なのですか。実態を把握するべきではありませんか。

Q2 なぜ都教委が、高校ごとに「難関大学」の合格者数を発表しているのですか。

Q3 こうした公表が、やみくもに学校に合格者数を競わせることにつながると思いませんか。

Q4 学力の向上や本人の進路希望の実現などは否定するものではありませんが、生徒にこのような影響がでていることも把握し、生徒に、学校の目標達成を第1においた要求やプレッシャーを与えないことが重要ではないですか。

 実際、ある高校では07年度、先に述べた国立4校と国公立医学部医学科に、現役生徒が76人も受験していますが、15人しか合格していません。各大学への受験者数に対する合格者数の割合をみると、東大が32%、一橋大11%、東工大17%、京大0%、国公立大学医学部医学科14%と、10人に1人か2人しか合格しない状況です。
 受験校の決定にはさまざまな要素が関係しているとは思いますが、実際にお子さんを通じてその高校の進路指導を経験した親御さんが、受験者数にくらべてあまりにも合格者数が少ないと驚き、「『成果』を焦るあまり、こうした無理な難関校への受験を誘導していると思われてならない」と、生徒本位の進路指導というより、自分の子どもが学校の目標達成の手段とされたと感じているのです。そして、「これからも、私の子どものような犠牲者がでないよう、国立4大学への現役合格絶対数を競わせるような、都教委のやり方を是正させてほしい」と語っています。

Q5、都教委が「難関国公立大学」や「難関私立大学」への合格者数を競わせるようなやり方を改め、子どもの心を傷つける進路指導の歪みを正すことが求められているのではないですか。

 都教委はこの間「都立高校改革」として、学校の多様化・複線化路線を展開し、各校に、予算や教員の加配などを獲得したかったら特色化せよと、各校を競争させるやり方を展開しています。しかしこの路線のもと、無理に無理を重ねたやり方となり、生徒や保護者がむやみな競争に追いやられたり、学校の「特色」に生徒の方が自分を曲げて合わせなければならないなどの、矛盾と苦しみに満ちた訴えが、少なからず私たちのところにも寄せられています。

 私は、「都立高校改革」による二商と八王子工業の統合で、この2つの学校が生徒や地域のニーズを捉え地域と協力してつくり上げてきた伝統、本当の特色をつぶし、一方的な「特色」を押しつけている問題、また、4校あった八王子市内の夜間定時制高校が昼夜間定時制の拓真高校に統廃合され、入試倍率があまりに高くなり不合格の生徒が続出した問題などを、当事者の声にもとづき質してきました。生徒や保護者は身近に通える普通の都立高校に行きたいと願っているのに、全日制の普通科が1つもなくなってしまった区市町村もあります。不登校や中退などの生徒を受け入れるとするチャレンジスクールは3倍の入試倍率と、せっかくチャレンジしようとした子ども達をはねつけるものになっています。

 こうした矛盾を招いている根底には、都教委の「改革」が、すべての子どもたちの成長を保障するという立場ではなく、「人材」育成に重きを置いた差別と選別の路線によっていること、そして教育にはなじまない「競争原理」を学校現場に持ち込んでいることがあるのではありませんか。

Q6、今日の時点にたって「都立高校改革」と再編整備の現状を把握し、どの子にも教育の場を保障するという立場に立って、問題点について修正の方向に踏み出すべきではありませんか。

Q7、希望するすべての生徒が、希望にそった高校に入学でき、いきいきと学べる環境を整備することが求められていると考えますが、どうですか。

答弁

A1 受験校の決定は、生徒本人と保護者が行うものです。進学指導重点校においても、個別面談や三者面談等を通して、生徒一人一人の進路に合わせたガイダンス等を丁寧に実施し、本人の進路希望や特性に基づき受験校を決定できるよう指導の充実を図っています。

A2 都教育委員会は、都立学校全体の進路指導の充実を図るため、各進学指導重点校の指導方法・指導内容、指導体制、大学の合格実績など、特色ある取組の成果を公表しています。

A3 進学指導重点校においては、知・徳・体のバランスの取れた人格の形成を図りながら高い学力を身に付けさせ、個々の生徒の自己実現を図るため、進路指導に取組んでおり、合格者数を競わせることを目的とはしていません。

A4 進学指導重点校では、ホームルーム活動や三者面談等を通して大学の学部や学科等の情報を提供するなど、本人の進路希望を重視した進路指導を行っています。

A5 進学指導重点校には、難関国公立大学や難関私立大学への進学を目指して多くの生徒が入学してきており、そのような生徒の進路希望を実現するための教育を行っています。今後とも、生徒が希望する大学へ進学できるよう、進学指導重点校における進路指導の充実を図っていきます。

A6 都教育委員会では、平成18年度に「都立高校改革」に対する都民の評価及び都民の都立高校に対するニーズ等を把握するため、「都立高校に関する都民意識調査」を実施するとともに、「新しいタイプの高校における成果検証検討委員会」において、これまで設置してきた高校や既存校の成果と課題について検証を行い、平成19 年4 月に結果を公表しました。「都民意識調査」や検証の結果を踏まえ、生徒の多様な学習希望や進路希望に応えることができるよう、今後も教育内容や指導方法の一層の改善を図り、質の高い高校教育を推進していきます。

A7 都教育委員会は、多様化する生徒の実態や社会状況の変化に対応するため、様々な新しいタイプの都立高校を設置するとともに、既存校においても一層の特色化を図るなど、生徒の多様な希望に応える学校づくりを進めています。今後も、社会状況や都民の都立高校に対するニーズ等を踏まえながら、教育環境の更なる整備に努めていきます。

以 上