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二〇一〇年第四回定例会本会議討論  一二月一五日

古館和憲(板橋区選出)

 日本共産党都議団を代表して、第156号議案「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」ほか26議案に反対の立場から、討論をおこないます。

 今定例会では、石原知事による民意を無視した強引な都政運営がきわだちました。
 まず、青少年健全育成条例改定案についてです。
 今定例会に提出された改定案は、提出者である知事自身が「実質的に前と同じ」と認めたように、第二回定例会で否決された改定案と本質的に変わらないものです。そればかりか、新たに表現の自由を脅かす重大な問題を持つものです。
 最大の問題は、都が、「刑罰法規に触れる」性行為や「近親者間における」性行為を「不当に賛美し又は誇張するように描写し又は表現」という、新たな規制基準を持ち出してきたことです。これによって恣意的な規制が行なわれ、創作活動を萎縮させる危険がきわめて大きくなったのです。
 たとえば、刑罰法規の中には、青少年健全育成条例の淫行処罰規定がありますが、都は、漫画の中の行為が淫行に当たるか否かを、どのように判断するのかについてすら、明確に答えられませんでした。
 近親者間の性交渉を描いた文学作品は、日本にも「古事記」や「源氏物語」などがありますが、都は「古典文学の漫画化の体裁をとりながら、これにかこつけて」性描写がおこなわれているものは、規制対象になりうると答弁したのです。作品が描く人間関係、テーマさえ問題にする、このような条例は、全国に例がありません。

 さらに、都は「不当に賛美又は誇張」とは何かと問われ、これらの性行為が「社会的に許されるものと」青少年に思わせてしまう恐れのある描写・表現だ、そのような漫画等は規制対象になりうると答弁しました。まさに恣意的判断による規制を拡大するものです。
 だからこそ、今回の改定案に対して、きわめて短い期間に、日本漫画家協会、日本ペンクラブをはじめ作家団体、出版団体、さらに日本弁護士連合会など法曹界のみなさんが、こぞって反対の声をあげたのです。「コミック10社会」は東京国際アニメフェアへの協力・参加を拒否すると表明しました。改定案に反対の立場からの請願・陳情は一千件近くにのぼりました。
 青少年の心身のすこやかな成長の環境をととのえるために、図書の販売等に一定のルールを設けることは必要ですが、自主規制を第一とし、行政による規制は、最小限にすべきです。

 現行条例でも「性的感情を刺激」または「犯罪を誘発する」などの漫画等は、自主規制や不健全図書指定などの対象とされていますが、この基準自体も恣意的解釈の余地があります。だからこそ、何よりも、出版と販売の現場では、表現の自由を守りつつ、自主規制の効果を上げていく努力が積み重ねられ、自主規制団体である出版倫理協議会は、月に二千万冊に及ぶ雑誌にシール止めを施しているのです。

 にもかかわらず、都は、こうした団体などの意見を無視して、今回の改定案をつくったのです。まさに行政による暴走です。
 過去を振り返っても、性に関する表現規制や、書物の出版・閲覧に対する規制が、次々と他の領域にも拡大され、全般的な思想統制や言論弾圧に行きついた歴史を、人類は経験しています。私たちはこのことに、常に敏感であるべきです。
 改定案の危険性は、条文そのものの本質に根ざすものであり、「慎重な運用を求める」などの付帯決議をもって解消することはできません。そもそも付帯決議には法的拘束力がなく、都政において効果がなかったことは、新銀行東京の設立や、築地市場の豊洲移転関連予算可決のさいの付帯決議によって、経験済みのことです。
 都が全力をあげるべきは、青少年が性的自己決定能力や情報リテラシーを身につけることができるようにすることです。わが党は、今回の条例改定案を否決することを重ねて呼びかけるものです。

 第二に、知事による、築地市場の豊洲移転強行です。
 都議会は、現在地再整備については継続審議とすることを決定しました。水産仲卸組合の総代選挙では、移転に反対する人たちが多数になりました。豊洲移転計画については関係者の合意ができていないのです。にもかかわらず移転を強行することは断じて許されません。
 わが党は、都の土壌汚染対策及びその実験がごまかしに満ちたものであることをくり返し質してきました。そのたびに都はまともに答えず、すれ違い答弁に終始してきたのです。今議会でも、わが党の再質問にたいし、知事は答弁に立てず、代わりにたった市場長も、一部の学者のお墨付きを振りかざすことしかできませんでした。その学者が参加して有効性を確認したという技術会議では、「恐らく」「気がしております」などというあいまいな言葉がとびかい、およそ厳格な科学的議論がなされなかったのです。都の土壌汚染対策はとうてい信用できません。

 知事は、先日、大雨によって築地市場の一部施設が冠水、停電したことなどをあげ、築地市場の老朽化を豊洲移転の理由にしています。まさに「天につばする」ものです。雨漏り、冠水は、青果仲卸施設が竣工されて以来、何回も繰り替えされてきたにもかかわらず、都は、根本的な対策を怠ってきたのです。責任は石原都政にあります。
 知事が何をおいてもやるべきは、緊急補修、補強対策であり、築地市場内のすべての施設について、必要な耐震改修を進めることです。
 知事は、現在地再整備は十数年かかるといいますが、知事の豊洲移転固執こそ、この一二年間市場再整備を遅らせてきた最大の原因です。
 現在地再整備計画は、過大な施設計画の見直し、都負担による整備、仮移転の場合の費用負担、さらに同時併行的手続きなどもおこなえば、工期も短縮し、業者が合意できるより良いものが必ずできます。

 今議会で問われたもう一つの重大な問題は、雇用が破壊され都民のくらしが大変になっている今だからこそ、都政が住民の福祉、くらしを守るという地方自治体本来の立場に立ち返るかどうかでした。ところが、知事は雇用情勢が厳しいという認識を答弁していながら、今以上の雇用対策をやる気がないことを明らかにしたのです。これでは都民はたまりません。都の資金援助で、中小企業の事業発展と雇用創出を一体で進めることなど、都として安定した雇用創出にむけて最大限の力を注ぐことを重ねて求めるものです。
 今でも払いきれないほど高い国民健康保険料で正規の国保証が取り上げられ、病院にも行けず手遅れになる人が出ているのに、来年度から低所得者を中心に保険料が高くなる仕組みにする方向が打ちだされています。都として、国保料軽減のために区市町村への財政支援を思い切って増やすことが求められています。にもかかわらず、都として新たな財政支援をおこなわず、国庫負担をふやすことも求めないという驚くべき答弁がおこなわれました。都民の失望と怒りの声をひろげていることを指摘しておくものです。

 今定例会では50に及ぶ指定管理者指名の議案が提案されました。指定管理者制度は、原則五年ごとの契約更新で競争にさらされることなどによって、住民サービスを支える労働者の賃金低下や非正規雇用が増大し、官製ワーキングプア拡大の要因にもなっています。
わが党は、防災公園のように、非常時には、避難民への対応・指導など、都としての即決・即応を求められる責任を負うものは、指定管理ではなく直営にすべきだと考えます。また、民間企業の参入は抑えるべきと考えます。例えば東京体育館は、料金が大幅に上がってしまいました。しごとセンターでは、就労支援施設でありながらそこで働いている多くの職員は不安定雇用労働者という矛盾を生み出してきました。

 環状2号線の新橋・虎ノ門地区の道路建設と再開発を一体的に行う契約が出されましたが、再開発ビルの容積率を大幅に緩和した上、事業に莫大な税金を投入するものであり、反対です。
 政府は、一六日にも法人実効税率の5%引き下げを閣議決定しようとしています。こんなことが実行されたら、都は年間五千百億円もの税収減になります。知事は、法人実効税率を引き下げないよう、国に強く求めるべきです。わが党が提案したように、ムダ使いの一掃とともに、集積の利益を享受し、巨額の内部留保をためこんでいる大企業に対し、法人事業税の超過課税を上限まで引き上げることで、財源を確保し、都民の雇用、くらし、福祉を第一にする予算編成に転換することを求めて討論を終わります。

以上