2014年都議会第1回定例会一般質問 2014年3月5日

里吉 ゆみ(日本共産党・世田谷区選出)

一、児童精神医療について
二、ひきこもり対策について

【答弁】
知事
病院経営本部長
福祉保健局長
青少年・治安対策本部長

一、児童精神医療について

 はじめに、子どもの心の医療、児童精神科医療について伺います。
 発達障害や自閉症、統合失調症などさまざまな子どもの精神医療の重要性が認識されてきたのはこの十年来のことです。 また、ひきこもりの若者の中にも、一定数の精神疾患の患者が存在しているのではないかといわれています。これらの子どもたちに対して、早期に発見し、治療、療育をすすめることが、重要です。
 しかし現実には、小児期には療育の場があっても、児童・思春期になると、地域に受け皿となる病院や児童精神科の専門医が不足しているために見てくれる先生がいないという事態が起こっているのです。
 思春期の子どもの精神医療の拡充は、都として早期にとりくむべき課題です。

 知事は、子どもの心の医療、児童精神医療の重要性についてどのように認識しているのですか、伺います。
 国でも、子どもの心の医療にとりくむ病院や専門医師不足を解決しなければならないと、知事が厚生労働大臣だった年、2008年度から3年間のモデル事業が始まったのです。国を挙げて、子どもの心の医療を拡充しようとしているときに、他の小児病院と一緒に統合し、都立梅ヶ丘病院を廃止した都の責任は重大です。
 都立梅ヶ丘病院が廃止され4年になりますが、いまだに行き先が定まらず、困り果てている人、地域の診療所に通っていたが、病状が悪化した人なども少なくありません。
 梅ヶ丘病院に通えなくなってひきこもってしまった発達障害を抱えた方のお母さんから話を伺いました。府中はやはり遠くて通えなかったし、訪問看護も無いので、通院はあきらめたそうです。世田谷区内の大学病院は、1時間近くかかるのですが訪問看護があるので、そこに通院することにしたそうです。でもやっぱり数回しか通えなかったそうです。病院とのつながりは、看護師さんの訪問看護だけが頼りだとおっしゃっていました。症状が改善しない中で、この家族はついにその大学病院の近くに引越しをしました。通院するために、ここまでしなければならないのが現実なのです。

 都立梅ヶ丘病院がなくなった後の世田谷区周辺地域、2次医療圏でいえば、区西南部医療圏における児童精神科医療、子どもの心の医療体制の充実、底上げを図るべきではないでしょうか。
 そのために、たとえば、都立松沢病院の敷地内の土地を活用するなり、世田谷区が梅ヶ丘病院跡地にすすめている保健・医療・福祉拠点施設の整備計画の中で、区と連携するなりして、小児総合医療センターの分院として児童精神科の外来の設置ができないか、など検討すべきです。見解を伺います。

 子どもは、どういう環境の中で育つかが重要です。こうした子どもの特徴から、子どもの心の診療は、医療だけで成り立つものでなく、医療間連携にとどまらず、保健、福祉、教育などとの連携ができるシステムが必要です。東京都でも、2008年度から「子どもの心診療支援拠点病院事業」がスタートしていますが、都はどのように連携をすすめるつもりか、見解を伺います。

 また、全国的にも、都内を見ても児童精神科医が不足しているために、子どもや思春期を迎えた児童の通院先が、ごく一部に限られています。小児総合医療センターでは、いまだに児童精神科の初診は3ヶ月待ちという状況です。
 児童精神科医療の拡充には、専門医師の確保が不可欠です。
 都立病院として、児童精神医学を担う医師の育成をすすめるべきです。また都内の児童精神医師の増加に寄与するよう努めるべきです。見解を伺います。

二、ひきこもり対策について

 次にひきこもりへの支援について伺います。
「ひきこもり」が社会問題として取り上げられるようになってから10数年になります。東京都は、2007年ひきこもりの実態調査を行い、15歳〜34歳のひきこもり者数は、都内だけで2万5千人と推計しました。2010年に内閣府が行った推計では、15歳〜39歳のひきこもりの方が全国70万人と推計しています。

 ひきこもりは本人にとっても家族にとっても本当に苦しいことです。
 私も何人もの方からお話を伺っています。ひきこもりの問題は、本人も、何とかしなくてはと思う一方なかなかその一歩が踏み出せない。親は自分の育て方が悪かったのではないかと悩み、誰にも相談できず抱え込んでしまうことも少なくありません。そしてそのまま何年も経過してしまい、よけい社会復帰が困難になってしまうのです。
 この問題は、本人にとっても家族にとっても深刻な問題であるだけでなく、社会にとっても大きな損失です。
 知事も、厚生労働大臣時代に、「この問題は、・・・本人も苦しむ、家族も苦しむ、大変複雑な問題を抱えております。関係省庁とも連携をとりながら、このひきこもり対策、厚生労働省として正面からとりくんでまいりたいと思います」と答弁をしています。
 ひきこもりの問題は、都としても正面から取りくむべき重要課題だと思いますが、知事としての認識を伺います。

 東京都の施策を見ると、2004年度から相談事業を開始し、2007年からひきこもり実態調査、支援団体の実態調査、支援プログラムの検討・開発など集中的にとりくみ、2008年には「ひきこもりセーフティネット」モデル事業やNPO法人などが行う東京都若者社会参加応援事業が始まりました。しかしようやく軌道に乗り、さらに拡充をというときに都は予算を削ってしまいました。「はしごをはずされた思い」との声もあがっています。
 わが党都議団は、都内自治体を対象に「ひきこもり状態にある者への支援に関する調査」を行いました。その結果は回答のあった53自治体の中で、現在なんらかのひきこもり支援を行っている自治体は37、約7割ありました。しかし事業内容を見ると、相談事業や家族向けの懇談会などのところが多く、当事者への支援、居場所や社会体験事業などを行っているところは全体の1割程度しかありませんでした。
 そうした中で、今もひきこもりの困難を抱え、苦しんでいる人たちが一日も早い救いの手を待っているのです。
 先日、かつてひきこもりだったという20代の方から話を伺ってきました。彼は、中学時代に自分に自信がもてなくなって、学校に行けなくなったそうです。何度か、心機一転と決意して、外に出ても、途中でうまくいかずひきこもることを繰り返していました。たとえばフリースペースに1時間以上かけて母親と一緒に通ったけれど、月1回がやっとなのに、何回通っても月1万円という費用負担もあり、怪我をきっかけに行かなくなったそうです。
 その後、通える範囲にひきこもり支援のNPO法人がオープンしたのを知り、通うことにしたそうです。今はアルバイトができるまでになりましたが、最初は週1回フリースペースに通うことから始まり、1年くらい通う中で、定時制高校に入学、社会体験活動と少しづつ活動の場をひろげ、2年かけてアルバイトができるまでになったそうです。
 この方の場合、近くに通える場があったのでよかったのですが、都内の状況をみると、こうした施設が圧倒的に不足していますし、自治体の支援も NPO法人の支援なども地域によるアンバランスが大きいのが問題です。
 自治体やNPO法人などの支援団体からは、「ひきこもり支援の窓口を設置したい」、「居場所づくりや中間的就労支援に取り組む必要がある」、「支援を拡充したい」という声が出されています。 

 こうした声をどう受け止め、今後都としてどのような取り組みをすすめていくのか、伺います。

 また、長期間ひきこもっている方は、自ら相談に出て行くことは非常に困難です。ひきこもり支援の入り口としてきわめて重要な、自宅などに直接訪問する訪問活動、アウトリーチ支援をすすめていくべきだと考えますが、いかがですか、伺います。

 「子ども・若者育成支援推進法」に基づき、都でも「子ども・若者支援地域協議会」が設置されました。この協議会は「ひきこもり、ニート、不登校など、社会生活を円滑に営む上での困難を抱える子ども、若者への支援等について、都の施策のさらなる充実と区市町村・関係団体との連携強化を目指す」ことを目的に設置されました。先日第一回目が開催され、活発な議論がされたと伺いました。今後、当事者や親の会の方々など、現に困っている方にも参加していただき意見を聞くべきです。また、都の施策のさらなる充実を目指すという点では、大いに各参加団体の要望なども聞き施策の充実に努めるべきです。これから都として「子ども・若者育成支援推進法」をどう具体化するのか、また協議会をどのように運営する予定か、伺います。

 ひきこもりへの支援の最後に、ひきこもりの長期化、高齢化への対応について伺います。町田市が年齢制限を設けず、実態調査を行ったところ40代以上も一定数いたことがわかりました。また都内の「ひきこもり親の会」に参加している方のお子さんは、34歳以上が4割、40歳以上でも1割だそうです。

 都のひきこもり支援の施策である「若者社会参加応援事業」の対象が15歳〜概ね34歳までという年齢制限は、実体に合わなくなっているのではないでしょうか。ひきこもりが長期化したときの対応、年齢制限を超えた方への対応はどのように考えているのか、都の見解を伺います。

 知事は、施政方針表明の中で、「都民の大きな付託に応えるため、様々な意見に耳を傾け、声なき声にも、しっかり耳を澄ましてまいります。」とおっしゃっています。ひきこもり当事者や親などの声にこたえて、是非ひきこもり対策に取り組むよう求め、質問を終わります。

【答弁】

〇知事 里吉ゆみ議員のご質問にお答えします。
 子供の精神医療についてご質問がございました。
 全ての子供は、日本の未来、宝であります。その健やかな育ちを支えることは、行政はもとより、社会全体が連携して取り組むべき課題であると考えております。
 心の健康は子供たちの成長にとって欠かすことのできないものであり、精神医療はこれを守り支えるものと認識しております。
 残余の質問につきましては関係局長に答弁させます。

〇病院経営本部長 二点のご質問にお答えします。
 まず、児童精神科外来の新設についてでありますが、これまで進めてまいりました都立病院改革では、限られた小児の医療資源を最大限に有効活用するため、清瀬、八王子、梅ケ丘の小児三病院を統合し、都における小児医療の拠点として小児総合医療センターを整備いたしました。
 同センターは、都全域を対象として、心から体に至る高度専門的な医療を提供しておりますが、加えまして、小児医療を重点医療としている区部の大塚病院にも児童精神科外来を設置し、連携を図っているところであります。
 したがいまして、新たな外来設置は考えておりません。

 次に、児童精神科医師の育成についてでありますが、都立病院では、平成二十年に開講した研修医制度である東京医師アカデミーにおきまして、既に児童精神科専門医の育成にも取り組んでおります。
 児童精神科医師を育成している病院が全国的に少ない中、同アカデミーにおきましては、これまで十八名の医師を育成し、うち十三名が都立病院、公社病院を初めとする都内の病院に就職するなど、都における児童精神科医療の充実に寄与しております。

〇福祉保健局長 子供の心診療支援拠点病院事業についてですが、都は、さまざまな子供の心の問題や被虐待児の心のケア、発達障害などに対応するため、平成二十年度に拠点病院を指定し、関係機関が連携して子供を支援する体制の構築を図っております。
 現在、拠点病院である都立小児総合医療センターでは、医療機関、保健所、児童相談所、児童福祉施設、教育機関などからの相談に助言を行うほか、小児精神科治療に関する連絡会や関係機関の職員を対象としたテーマ別の研修を実施し、連携強化に努めているところでございます。

〇青少年・治安対策本部長 五点の質問についてお答えいたします。
 ひきこもり対策に関する都の認識についてでありますが、ひきこもりとは、就学や就労の際の不適応や人間関係等が原因で、自宅に六カ月以上閉じこもり、社会との接点を持てない状態であります。
 こうした状況が長期化すれば、本人にとって、就学や就労ができないなど自立と社会参加への機会が失われ、また、家族にとっても精神的、経済的に大きな負担がかかり、さらには、ひきこもりがふえることで社会の活力の低下につながるおそれがあります。
 都は、ひきこもりの解消や自立への支援といった対策が大変に重要であると認識しておりまして、早期に適切な支援につなげていくため、今後とも、区市町村やひきこもり支援を行っておりますNPO法人等と連携して、地域における支援の充実を図ってまいります。

  次に、ひきこもり支援の充実についてでありますが、ひきこもりに陥る原因はさまざまであり、その支援も個々の事例に即したきめ細かな対応が必要であります。
 そのため、住民に身近な地域での支援を充実する必要があり、区市町村における取り組みの促進と、ノウハウを持つNPO法人等の育成が不可欠となります。
 そこで、都は、区市町村の担当職員を対象とした情報交換会や実務研修を実施しております。また、ひきこもり支援を行っているNPO法人等の団体に、支援技術や経営能力の向上を図る講習会等を開催してまいりました。
 今後とも、こうした地域への支援事業を通じて、ひきこもり支援のさらなる充実を図ってまいります。

 訪問支援、いわゆるアウトリーチについてでありますが、ひきこもりの若者は、みずから助けを求めることが少ないため、外部の支援機関に結びつけることが困難な場合が多いことから、地域でのひきこもりの実態に即した訪問支援は有効な支援策となります。
 そこで都は、従来の相談支援に加え、国の補助制度を活用した訪問支援を来年度から取り組んでまいります。子ども・若者育成支援推進法の具体化及び子供・若者支援地域協議会の運営についてでありますが、都は、子ども・若者育成支援推進法の具体化として、全ての子供、若者の健やかな育成並びに社会生活を円滑に営む上で困難を有する子供、若者への支援についての総合的な計画であります、子供・若者計画の策定を予定しております。
 また、子供・若者支援地域協議会の運営につきましては、子供、若者施策の推進に当たり、子供、若者自身を含めた国民の意見聴取を適切に行う旨、国の方針が示されていることを踏まえまして、子供、若者の実情に詳しいさまざまな関係者から幅広く意見を聞いてまいります。

 最後に、ひきこもり対策の対象年齢についてでありますが、ご指摘の若者社会参加応援事業は、ひきこもりの若者を支援する民間団体の実態調査をもとに、十五歳からおおむね三十四歳までの若者層を主な対象としております。
 こうした年齢設定の趣旨は、本来、ひきこもりの問題を抱える若者を早期に適切な支援につなげ、ひきこもりの状態が長期化することを未然に防ぐものであります。
 これに対して、ひきこもりが長期化して対象年齢を超える場合には、本事業にかかわる団体が実情に応じて柔軟に対応してきたところでありますが、都が事業の対象とならない事例について相談を受けた場合には、個々の状況に応じて就労、福祉や保健、教育等の関連する専門機関を幅広く紹介しております。