2014年都議会第3回定例会 一般質問 9月25日

米倉 春奈(豊島区選出)

学生への支援について

 学生への支援について伺います。
 私は、豊島区の母子家庭だった大学1年生から相談を受けました。高校生の弟との2人兄弟でしたが、母親が病気で亡くなり、どうしたら大学を続けられるかという相談です。必死に手立てを探しましたが、都の支援制度は「貸与制度」しかありませんでした。お兄さんは弁護士志望でしたが、ロースクールを卒業するまでお金を借り続けては、借金があまりに大きくなりすぎると言って退学してしまいました。就職して弟の今後の学費も用意するというのです。お金がなければ、願っても学び続けることができない。こんな日本でいいのかと思いました。
 日本の大学の学費は、世界一高いと言われています。
 新入生が大学に払う学費は、国立大学が約82万円、私立大学が平均131万円です。私立大学4年間の学生生活費は、自宅通学でも平均738万円にもなるのです。このため、学生の2人に1人が奨学金を借り、この半分以上が利子がつくもので、卒業と同時に数百万円の借金を背負います。
 しかも非正規雇用が増え、返済したくてもできない若者が増加したことに対して、行き過ぎた回収強化が進められました。わずか3ヶ月延滞してブラックリストに登録された件数は、3万件をこえました。
 こうした中、進学をあきらめる高校生、進学したものの中途退学する学生、返済が心配で奨学金を借りず、アルバイト漬け生活で満足に勉強できない学生が数多くいます。
 学費と生活費のために週に5日、夜間アルバイトをしている、大学1年生は、「勉強時間を十分に確保することが難しい。大学は何のためにあるのか、問われているんじゃないか」と話してくれました。
 知事は昨年、国会で「格差が世代間で継承されないということの方が私はいいと思います」と述べ、また労働や教育の分野で「機会の平等が保障されていない部分が多々ある」として、奨学金制度を含めた就学支援を政府に求めています。先日の所信表明でも「教育は、身につけば絶対になくなることのない人生の大きな財産」と述べました。

Q1 知事は、日本の未来ある若者に等しく学ぶ機会が与えられることや、大学を始め高等教育で学ぶことの意義をどのように考えておられますか。

 日本の高等教育政策は、世界の流れから大きく遅れています。OECD加盟34カ国のうち、すでに17もの国が、大学の授業料を無償にし、無償でない国でも、返済の必要のない奨学金制度を持っています。どちらも実現していないのは、日本だけです。そうした中、日本政府が一昨年、中等・高等教育の「無償教育の漸進的導入」を規定する、国際人権A規約13条2項b、cを批准したことはひとつの画期となりうるものです。しかし、その後の動きは不十分です。国の「学生への経済的支援のあり方検討会」の「最終まとめ案」でも、教育の機会均等を保障するための2つの柱である、「授業料無償化」は完全に無視され、「給付制奨学金」は「将来的な課題」として後景に追いやられてしまっているのです。
 今、学生の実態や声を集めた「黒書」を作成したり、署名にとりくむなど、東京でも全国でも、学費軽減を求める学生たちの行動が広がっています。
 日本と並んで学費の高い韓国では一昨年、学生の要求に応え、ソウル市長の決断でソウル市立大学の学費を半額にしました。このソウル市の取り組みを契機に、他の自治体での学費無償化や値下げが始まり、大統領選挙でも政府の支援による大学の学費値下げが争点になるなど、韓国全体に影響を与えています。
 私はこの夏、ソウルで大学関係者や学生に直接お話を伺いました。NGOでインターンをしている学生は「半額の学費と国の給付制奨学金を利用して、授業料はかかりません。おかげで、アルバイトを減らし、勉強やボランティアに積極的にとりくめる」と話してくれました。
 ソウル市民から多くの支援を受けているとして、学生も、社会に寄与する人材になると宣言するなど、意識が変化したと言われています。学生の学びを公的に支えていくことは、東京や国際社会に貢献する人材を育てていくことにつながるはずです。
 スウェーデンの国家予算並みの財政力を持つ東京都から、日本における大学の学費負担軽減、学費無償化への流れをつくっていこうではありませんか。その第一歩として、首都大学東京の授業料引き下げに踏みだすことを提案します。

Q2 都として運営に責任を持ち、運営費交付金を交付している首都大学東京は、国立大学より学費がほんの少し安いとはいえ、40年前とくらべ約35倍にも引き上げられています。首都大学東京と協力して授業料を引き下げることを求めますが、いかがですか。

 都は「国との役割分担」を理由に「学生支援は国の仕事」として、かつて行っていた大学生への奨学金を打ち切ってしまいましたが、全国の自治体では、学生の経済困難を受けて、給付制奨学金を設置するなど支援をはじめています。長野県では今年から始め、沖縄県では2016年から、大学生対象に給付制奨学金設置を目指すとしています。東京でも江戸川区は区内居住者に35万円、小金井市も月に1万2200円を給付しています。厳しい予算の中でも学生支援に取り組む自治体がこのように増えているのです。

Q3 都としても、教育の機会均等を確保するため、都内の大学に通う学生への給付制奨学金制度を、民間からの寄付を募ることを含め、創設することを求めます。

 首都大学東京の授業料減免制度の拡充も重要です。知事も、減免制度を利用して学生生活を生き抜いてきたと話しています。
 リーマンショック以降、予算枠をこえて学生が減免申請するようになる中、国はこの5年間、国立大学の運営費交付金の減免枠を増やし、今年度は、各大学が授業料収入の9・8%を授業料減免にあてられるようにしています。
 一方、首都大学の減免予算は、2005年の独立行政法人化以降、授業料収入の7・67%にすえおかれたままです。そのため、都は、収入基準を満たす学生は、何らかの減免措置を受けられるといいますが、年によっては、本来、全額免除になる収入の学生が100人以上も半額しか免除されない事態が起きているのです。

Q4 知事は若者を東京から育てるというのですから、授業料減免を学生支援として政策的に位置づけて、そのための運営費交付金を首都大学に交付することを求めますが、いかがですか。

 最後に、もっとも経済的に困難な層への、早期の支援についてです。
 保護者に頼れない児童養護施設出身者の大学進学は、一般世帯に比べ非常に条件が厳しくなります。その中でも、東京都が進学時に上限70万円の給付を行い、支援していることは重要です。
 しかし、2年目以降は経済的支援がなく、学生生活を続けるのは大変です。都の調査でも、中途退学の一番の理由は「アルバイトと両立できなかった」というものです。

Q5 児童養護施設を出て進学した学生の、2年目以降の、経済的なものを含めた困難さをどのように認識していますか。また、学生生活を続けるためには、2年目以降もなんらかの支援が必要と考えますが、いかがですか。

Q6 児童養護施設出身者に、進学時に必要な費用を貸し付ける「自立生活スタート支援事業」は、無事に卒業したら返還が免除されますが、中退したら返還義務が生じます。しかし、中退者の多くは、学びつづけたいと思いながらも、経済負担に耐え切れなかったのです。貸付金の返還請求は、その苦難に追い討ちをかけるものではありませんか。経済的困難や病気などを抱える若者については、免除や猶予を含め、柔軟な対応を求めますが、いかがですか。

 増加する生活保護世帯の、子どもの自立・社会参加への支援も重要です。生活保護世帯の子どもも進学する際、学費も生活費も自力で用意しなければなりません。意欲があっても、多くの子どもが大学進学を断念しているのです。

Q7 現状では、一般世帯に比べて、生活保護世帯出身の子どもは、大学進学率が低いと思いますが、いかがですか。東京都内の一般世帯と生活保護世帯の大学進学率について、それぞれお答えください。

Q8 生活保護世帯の子どもについて、大学進学する際の支援を強化することなどにより、貧困の連鎖をくい止めることは重要だと思いますが、いかがですか。

 さまざまな背景を持つ学生の、学ぶ権利の保障について質問をしてきましたが、
Q9 東京の大学生も自立や就職などについての悩みを抱え、支援を必要としています。都として、大学生を対象とした取り組みを行い、これから策定する「子ども・若者計画」に盛り込むべきと考えますが、いかがですか。

交通政策について

 次に、鉄道駅のホームドア設置について伺います。
 知事が、長期ビジョンで2024年度までにJR・私鉄の1日あたりの利用者数10万人以上の駅のホームドア整備の完了を目指すと打ち出したことは重要な前進です。
 私の地元、池袋駅の1日当たりの乗降客は約260万人で、世界2位です。加えて、年間20万人もの障害者が利用する、東京都障害者総合スポーツセンターへの直行バスが出ており、バリアフリーの観点からも非常に重要な駅です。パラリンピックに向け障害者スポーツを支援していく上でも、都内の鉄道駅のバリアフリー化を進める上でも、早期に池袋駅の全線にホームドア設置が実現することは重要です。

Q10 そこで、池袋駅に乗り入れる鉄道へ、ホームドア設置を働きかけることを求めます。見解をうかがい、質問を終わります。

ン置が実現することは重要です。

Q10 そこで、池袋駅に乗り入れる鉄道へ、ホームドア設置を働きかけることを求めます。見解をうかがい、質問を終わります。

【答弁】

〇知事 米倉春奈議員の一般質問にお答えいたします。
 大学で学ぶ意義などについてでありますが、大学で何を学ぶべきかという点で、私はよく三つのことを申し上げております。
 第一点目は、専門領域だけではなくて、総合的、大局的な物の見方を身につけてほしいということであります。
 次に、いろいろな人とつき合い、意見にも耳を傾け、人間の多様性に対する理解を深めてほしいということであります。
 最後の三番目は、国際性を身につけて、世界の国や文化、宗教の多様性を認識してほしいということであります。
 また、大学生の経済的な問題についてのお話がありましたが、私の学生時代の話をいたしますと、家計が決して楽ではありませんでしたので、私は勉強に打ち込みながら奨学金とアルバイトで何とか自立した生活を送ったという経験がございます。
 そもそも大学というのは、全国から学生が集まる場であります。大学での教育の問題は、国全体の教育政策の中で議論されるべきことだと思っております。
 大事なことは、国全体の教育予算を充実させるためには、日本の経済を活性化して、富をふやすことが必要だということであります。
 質問の中で、奨学金の返済の話もございましたけれども、経済がよくならなければ、就職するのも難しいわけであります。
 都議会の共産党の皆さん方も、国家戦略特区や国際金融センター構想、都市の再開発や外環道の整備など、東京が日本経済を牽引するための政策にぜひご協力をお願いいたしたいと思います。

〇総務局長 首都大学東京についての二点のご質問にお答えいたします。
 まず、授業料の引き下げについてでございますが、公立大学法人の授業料は、地方独立行政法人法の規定により、議会の議決を経た上で都が上限額を認可し、その範囲内で法人が決定する仕組みとなっており、都と首都大学東京が協力して定めるものではございません。
 授業料の具体的な額の決定については、ほかの大学の動向や社会経済状況などを総合的に勘案し、首都大学東京が自主的、自律的に判断しているところでございます。

 次に、授業料減免のための運営費交付金についてでございます。
 法人の予算の中で授業料減免をどのように設定するかなどにつきましては、授業料額の設定と同じく、首都大学東京が自主的、自律的に判断して行うべきものでございます。
 首都大学東京といたしましては、授業料減免の対象となる所得基準に該当する学生全員が何らかの減免を受けられるよう措置していると聞いているところでございます。

  〇生活文化局長 大学生に対する奨学金制度についてでありますが、都は、大学など高等教育機関の所轄である国との役割分担に基づきまして、大学生に対する育英奨学制度を国が拡充させたのを機に、東京都育英資金事業につきまして、高校等に通う生徒に重点を置くことといたしました。
 平成十七年度には、それまで国が行っていた高校生等に対する奨学金貸付事業は都に移管され、その後さらに都として充実を図っているところでございます。
 今後も、この役割分担に基づき、奨学金の貸付事業を実施してまいります。

〇福祉保健局長 四点のご質問にお答えをします。
 まず、児童養護施設退所者の進学後の支援についてですが、施設を退所し進学した児童が安定した学生生活を送るためには、入所中はもとより、退所後においても必要な支援を継続していくことが必要であります。
 そのため都は、退所した児童への生活や就学の支援などを行う施設に対しまして、独自の補助を行うほか、関係機関とも連携し、入所児童の自立支援や進学に向けた準備から退所後の相談支援等を行う自立支援コーディネーターを専任で配置する取り組みも行っており、現在、五十二施設で実施しております。
 また、施設を退所した児童が気軽に集まり交流できる、ふらっとホームを都内二カ所で実施し、生活や就学上の悩みや相談にも応えております。
 また、就学に必要となる学費や生活費につきましては、日本学生支援機構の奨学金や社会福祉協議会の教育支援資金などの公的な支援を受けられるほか、各大学における学内奨学金や授業料等の減免、猶予など、さまざまな支援制度が用意されております。

 次に、自立生活スタート支援事業の就学支度資金についてでありますが、この事業は、児童養護施設等の退所者が自立した生活を営めるよう、大学等に進学する際の費用について五十万円を上限として無利子で貸し付ける都独自の支援策であり、借り受け人が大学等を卒業した場合には、自立に向けた真摯な努力をしたものと認め、返済を免除する仕組みとなっております。
 一方、中途退学した場合につきましては、貸付契約に基づき、原則として返済を求めることとなりますが、その場合であっても、借り受け人の経済状況等に応じて一定期間返済を猶予できるほか、疾病等により将来にわたって返済能力がないと認められる場合には、返済を免除できることとなっております。

 次に、子供の大学進学率についてですが、文部科学省の学校基本調査によると、平成二十五年度に高等学校を卒業した生徒の大学進学率は、都内全世帯で六三・〇%となっております。
 一方、厚生労働省のデータで見ると、生活保護世帯の大学進学率は二二・八%となっております。

 最後に、生活保護世帯の子供の大学進学についてですが、大学進学に必要な入学料等については、保護費などの中から積み立てた預貯金を充てられるほか、今年度からは、従来は収入認定されていた高校在学中のアルバイト収入を充てることが可能となっております。
 また、就学に必要となる学費や生活費につきましては、先ほど申し上げたとおり、各種の支援制度が用意されており、福祉事務所では、生活保護世帯の子供が将来自立した生活を営めるよう、高校卒業時の進路選択に当たって、本人の置かれている状況や希望、適性を踏まえ、こうした各種制度を案内しながら、きめ細かく助言を行っているところでございます。

  〇青少年・治安対策本部長 支援を要します大学生への対応についてでありますが、都は、社会生活を円滑に営むことが困難な若者や、人間関係につまずいたり、就労に至らない等の悩みを抱えた若者に対し、さまざまな支援を行っております。
 これら支援の一環として、電話や電子メール、面接により気軽に相談できます若者総合相談窓口、若ナビを運営しておりまして、就職等の社会的自立や、家族、友人との人間関係で悩む学生の利用も多いところであります。
 こうした状況を踏まえ、来年度中の策定に向け検討を進めております子供・若者計画におきましても、若ナビを初めとする関連施策を盛り込み、大学生を含む青少年への支援の充実に努めてまいります。

〇都市整備局長 ホームドア整備に関する取り組みについてでございますが、都は、鉄道利用者の安全性確保などの観点から、JR東日本及び私鉄のうち、乗降者数が十万人以上の駅を優先いたしまして、今年度から、ホームドアの設置費用に対する補助制度を本格実施いたしました。
 初年度につきましては、西武池袋線池袋駅など三駅に補助する予定でございます。
 引き続き、この制度を活用しながら、鉄道事業者を初めとする関係者と連携いたしまして、ホームドア整備の促進に向けて取り組んでまいります。