第1回定例会 一般質問(全文) 2015年2月25日

かち佳代子(大田区選出)

児童虐待対策の充実について
看護師不足対策について
新空港線について
答弁 一、児童虐待対策の充実について

 まず、児童虐待対策について伺います。
 昨年、都内で7人兄弟のうち、1人の男の子が「行方不明」であることが発覚し、その後両親が「2〜3年前に亡くなったので、雑木林に埋めた」と供述した衝劇的な事件がありました。今日、貧困や親の事情から虐待によって、心身ともに傷つくこどもたちが増加し、時には命を落とすなど年々深刻で複雑になっています。こうした子どもたちを救済し、一人一人にあった支援をする児童相談所や児童福祉司の果たす役割はますます重要となっています。
 私はこの間、都内の児童相談センターや児童相談所、一時保護所などを視察しましたが、一時保護所は、入所した児童にとっては、外出や通学を含め様々な制約も受ける所であり、緊急に親から引き離された児童は、精神的にも不安定で、温かい支援が必要だということを、痛感しました。
 現在都内の一時保護所は6か所、定員192名ですが、ここも、すでに定員オーバーの状態です。複雑な事情を抱えたこどもたちが、時には、折り重なるように敷き詰めた布団で休まなければならない状況です。
 現在都内の児童福祉司は、200人で、年間約8000件に及ぶ相談に対応し、1人平均93件ものケースを担当しながら、子どもたちの命を守るために必死の取り組みをしています。
 東京の人口当たりの児童福祉司数は全国都道府県の中で最低です。厚労省は「1人当たりの担当数の理想は20〜30件といわれている」と国会で答弁しており、過重負担は明らかです。児童相談所は、人口900万人の神奈川県内に14か所、人口740万人の愛知県内に12か所が設置されています。都内の児童相談所はたった11か所です。
 知事は、「被虐待児の急増に対応して、児童相談所の体制を強化し、一時保護所の定員を増やす」と述べ、新年度予算案では児童福祉司は13名増え、一時保護所の定員は、22名増やすとしたことは、重要な前進です。
 しかし、長期ビジョンには、児童福祉司の人数や一時保護所の定員、児童相談所の数を増やす計画は示されていません。今日の児童福祉司、児童相談所の現状をどう認識し、中長期的にこれらの取り組みを、どのように強化していくのかお聞きします。

 児童養護施設など受け入れ施設を確保することが必要です。同時に国は小規模化・家庭的養護の体制の拡充を求めています。児童福祉審議会の提言や、都の長期ビジョンにも示されている、「サテライト型」の児童養護施設の展開は、東京の実情に対応したものであり、フアミリ―ホームや養育家庭などへの支援が期待されています。
 都内に児童養護施設のない地域が多くあることを踏まえれば、さらに設置数をふやし、家庭的養護を推進することが望まれています。都はどのように取り組むのですか。

 家庭的養護の柱の一つは養育家庭の存在です。しかし、養育家庭への委託件数は、ここ10年間伸び悩んでいます。深刻な被虐待などの増加や、実親との調整困難、社会や学校での無理解など、困難や悩みをかかえている人が多いということも、何人かの里親さんから話を伺いました。
 養育家庭への支援は、現在3人のチームで取り組む体制になっていますが、里親の会などと、児童相談所担当者との認識を一致させ、要保護児童に対する、問題解決のためのチーム力を強化することを含め、新たな里親支援の仕組みづくりが求められています。その際、里親の乳幼児養育への取り組みや、委託継続困難事例への検証作業などの確立にむけ、里親の会や関係者も含めた検討会を設置し、取り組む必要があると思いますが、いかがですか。

 虐待防止対策のためには、幼少のころから、その年代に応じて、命の尊厳や大切さを伝え、自己肯定感を高めるとともに、命や性についての正しい知識を啓発していくことが重要です。さらに、孤立しがちな若年出産や産前産後のうつ防止など、身近な所で費用の心配なく支援を受けられる仕組みづくりを確立し、これらの取り組みに、助産師などの活用を検討することを、求めます。お答えください。

二、看護師不足対策について

 次に看護師不足対策について伺います。
 国の第7次看護職員の需給見通しに基づく、東京都の需給見通しでは、2011年には2623人の不足だったのが、2015年にはゼロとなり、看護職員の不足は解消するとしています。しかし実際には、2014年12月の時点で、看護師の不足状況は、都内では9377人となっており、需給見通しの不足数の7・6倍にも膨れ上がっているのです。
 昨年9月に知事も参加した「福祉先進都市東京に向けた懇談会」の中で、上昌広医学博士は、東京の看護師は絶対数も育成数も極度に不足している、東京は今後、看護師不足がボトルネックになる、養成数を増やすしかない、看護師は地育地活―地域で育ち、地域で働いている、東京が養成しないと周辺の県から看護師を吸い寄せ、その県の医療を壊してしまう、として看護師不足の深刻さと養成数を増やすことの重要性を述べています。
 知事、都の看護職の需給見通しは、未達成状況が続いています。需給均衡を目指して、諸施策に取り組んできても、なお不足状況が続いている事態を、どのように認識しているのですか。
 また、懇談会での上教授の発言をどのように受け止めているのですか。それぞれお答えください。

 全国の看護職の離職率が11%前後なのに、都内では、14・2%です。2013年の日本医療労働組合連合会の調査によると、「仕事を辞めたい」が75%を占め、理由は「人手不足で仕事がきつい」が44%でトップです。これが現場の悪循環となっているのです。
 厚労省5局からの通知は「看護業務が健康で生きがいをもって能力を、発揮し続けられる職業となる」ために、働く環境を整備し「雇用の質」を高めていくことが喫緊の課題だとしています。
 また、日本看護協会は「夜勤・交代勤務のガイドライン」を示し、長時間拘束の夜勤の改善や、生体リズムに即した正循環勤務体制を図り、夜勤免除や、勤務時間の短縮など多様な働き方を保障するなど、労働環境の改善によって離職防止を呼びかけています。それらを遂行するためにも、看護師の大幅増員が必要なのです。
 2000年にだされた「都における看護職員養成に関する検討会」の最終報告では、「今後高齢社会を迎えるにあたって、看護需要は高まる」としていながら、都内の看護師供給の一端を担っている都立看護専門学校の定員は統廃合によって、養成数が4割も減らされました。削減するのは逆行です。
経済的負担が少しでも軽い都立看護専門学校の増設が必要です。都は志ある看護学生を育成する責務があります。今日的状況に照らして、都における看護職員の養成に関する新たな検討と計画が必要ではありませんか。
 また、築43年の広尾看護専門学校の改築は速やかに実施するよう求めるものです。それぞれお答えください。

 この際、定員も増やすことを、求めておきます。

 とりわけ地域中小病院での看護師不足が深刻です。有料職業紹介業の手数料制度は、「届出制」で高額の手数料を認めています。このため中小病院では、大変な負担を強いられています。ある病院では、紹介業者を介して27人を採用しものの、3割に当たる7人が数ヶ月以内に中途退職しました。費やした経費は1300万円にものぼります。この経費の基は、診療報酬です。「病院経営上も大きな負担」「医療・看護の質の低下」を招くと訴えています。
 知事、人の命を預かる看護という職業や、病院経営や医療の質に、大きく影響を与えかねないこのような事態をどう認識していますか。

 日本病院協会も、切羽詰った病院の多くが、有料斡旋業者に頼る状況から、アンケート調査を行い、国においても民間職業紹介業者を利用した医療機関が対応に苦慮する事例があるとのことから、実態調査をおこなっています。都として都内医療機関の看護師不足などの状況、有料職業紹介業の利用状況や問題の実態について、調査し対策を講ずることを求めます。お答えください。

 日進月歩の医療現場を離職したあと、再就職するためには高いハードルがあります。丁寧な研修制度の充実と、条件整備とともに、働き方の相談窓口は、都内17か所のハローワークと連携したり、出張相談など支援体制の強化とともに、ナースプラザが行なっている再就職のための無料合同説明会も、いまは、2箇所だけですが、より身近なところでも、開催するなど参加者を増やす工夫も必要です。それぞれお答えください。

 荏原病院は公社化して9年になりますが、以来看護師不足のため43床の休止状態が続いています。こうした中で、病床稼働率は平均67%と他の公社病院と比較しても最低です。荏原病院は、羽田空港に最も近い位置にあり、都立の時代から、サーズやエボラ出血熱など一類感染症受け入れ病院として、重要な役割を担っています。また、地域の中核病院として、500床のベットを確保していながら、充分な稼働ができていないことは、都民にとっても大きな損失です。長期に看護師不足が続いている要因を都として、調査・分析し、打開策を明らかにして、支援対策を強化することを求めます。お答えください。

三、新空港線について

 最後に新空港線についてお聞きします。
 JR蒲田と京急蒲田駅の利便性を確保するとして、はじまった地下鉄蒲蒲線構想は、現在では新空港線構想となり、総事業費も当初の試算で1080億円。最新の新たな構想は、フリーゲージトレインの導入というものですが、これはまだ実験段階であり、実用化すらしていないものです。
 この構想は、池袋や、埼玉方面から羽田空港への鉄道輸送ルートを創設し、短時間・大量輸送が目的です。JR蒲田も京急蒲田も、通過駅になりかねず、沿線住民にとっては、通過列車ばかりが増えて、かえって不便になることは、京急の高架化後のダイヤによって、すでに経験済みです。
 新空港線は、沿線住民の利便性や費用対効果の観点、あるいは新型車両の実用化までの工程や、安全性の確保など未解明の問題が山積で、実現性の厳しい構想ではないかと思いますが、都の見解を求めて質問を終わります。

以上

【答弁】

〇知事 かち佳代子議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、児童虐待への対応力の強化についてでございますが、児童虐待は、子供の心に深い傷を残すだけでなく、子供たち一人一人が持つ未来への可能性を奪うこともございます。決して許される行為ではありません。
 都はこれまで、深刻化する児童虐待に的確に対応するため、児童福祉司や児童心理司の増員、虐待対策班の設置、一時保護所の定員拡充など、児童相談所の体制強化に取り組んでまいりました。来年度は、児童福祉司をさらに増員するとともに、一時保護所の増設も行います。
 また、区市町村に対しましては、虐待対応力の強化を図るため、子供家庭支援センターへの専門職の配置を支援するなど、さまざまな取り組みを行ってまいりました。
 児童虐待の防止に向けては、行政のみならず、民生児童委員、医療機関や学校など地域が一体となって取り組んでいかなければなりません。今後、地域の関係機関との連携を一層強化し、児童虐待防止に向けて全力で取り組んでまいります。

 看護職員の確保についてでございますが、都はこれまで、都内に勤務する看護師の就業実態調査を踏まえ、需給見通しを策定し、修学資金の貸し付け、復職研修の実施、ナースプラザでの就業相談や職業紹介など、さまざまな施策を展開してまいりました。その結果、就業者数は着実に増加しておりますが、同時に、高齢化の進展などにより看護需要は増大しておりまして、今後一層取り組みを進めていく必要があると思っております。
 昨年九月の、言及がありました有識者懇談会では、委員から、看護職員の養成数をふやすべきだと、そういうご意見を承りました。専門的立場からのご意見と受けとめておりますが、看護職員の確保を進めるためには、今、都内で七万人存在すると推計されております潜在看護師の活用が第一に必要であると考えております。
 都は、今後とも看護師の養成対策、定着対策、再就業対策を三つの柱にして、看護職員の確保に取り組んでまいります。
 そのほかの質問につきましては、関係局長が答弁をいたします。

〇福祉保健局長(梶原洋君) 六点のご質問にお答えします。
 まず、家庭的養護の推進についてでありますが、都は、家庭的養護の取り組みを進めるため、少人数の生活単位で養育を行うグループホームやファミリーホームに対する開設準備経費や家賃の助成、グループホームの補助者や助言指導等を行う職員の増配置など、都独自の支援を行っております。また、来年度はグループホームなどにおける子供たちへの支援をバックアップするため、児童指導員や心理士を配置したサテライト型児童養護施設を、試行として三カ所整備してまいります。

 次に、養育家庭への支援についてでありますが、都は、児童を委託している養育家庭に対して、児童相談所や民間団体を活用した訪問支援や養育家庭同士の交流促進など、きめ細かな支援を行っております。また、養育家庭への委託を推進するため、各児童相談所に、養育家庭の代表者や児童福祉施設職員などで構成する里親委託等推進委員会を設置し、関係機関が協力連携しながら、施設に入所している児童の状況確認を行うとともに、委託の可能性を検討しております。
 今後とも、昨年十月にいただいた児童福祉審議会の提言も踏まえ、家庭的養護を推進してまいります。

 次に、虐待防止に向けた仕組みづくりについてでありますが、都はこれまで、子供を安心して産み育てられるよう、出産前後に家庭などの援助が受けられず心身の負担感を抱える母親を対象に、保健師や助産師等による継続的な相談支援を行う区市町村の取り組みを支援してまいりました。来年度は、保健師や助産師などの専門職が、全ての子育て家庭の状況を妊娠期から把握し、継続した支援を行うゆりかご・とうきょう事業も開始し、区市町村を支援してまいります。

 次に、看護職員の養成についてでありますが、都内の看護職員養成数は、民間養成施設の学科新設や定員増により増加傾向にあり、平成二十三年からの三年間で二百三十人程度増加し、平成二十六年四月の入学定員は五千九百人を超えております。また、現在、都内には離職した看護職員が約七万人いると推計されており、今後とも、養成、定着、再就業を施策の柱に、総合的な看護職員の確保に取り組んでまいります。
 都立看護専門学校の改築等につきましては、計画的に進めてまいります。

 次に、医師、看護師の有料職業紹介業についてでありますが、国は、平成二十五年度に医師、看護師の職業紹介に関する調査を実施いたしました。その結果を踏まえ、紹介業者とのトラブルを防止するため、昨年十月には、各都道府県労働局に医療機関からの相談窓口を設置しており、職業安定法等に違反する可能性があると判断した事案については、必要な指導等を行うこととしております。
 有料職業紹介業は、職業安定法による厚生労働大臣の許可に基づき運営されており、その指導監督は国が実施しております。都としては、国の動向を注視してまいります。

 最後に、看護職員の再就業支援についてでありますが、都はこれまで、離職した看護職員を対象に、身近な地域の病院で復職支援研修を実施しており、研修受講者の半数以上が再就業につながっております。また、昨年度から、東京都ナースプラザの職員が都内二カ所のハローワークに出張し、看護師等の有資格者や資格取得希望者を対象に、就職や資格取得に向けた専門相談を実施しております。さらに、離職する看護職員の届け出制度が本年十月から開始されるのに伴い、地区医師会の協力による就職相談会も開催いたします。

  〇病院経営本部長 荏原病院における看護師確保についてでありますが、これまでも公社病院では、看護師の退職理由の分析を行った上で、インターンシップ制度の創設や二交代制勤務職場の拡大、さらには育児短時間勤務制度の導入など、看護師確保に向けて働きやすい職場環境を整えてまいりました。
 都としても、看護師を必要に応じて公社病院に派遣するとともに、共同して採用活動を実施するなど、看護師確保を引き続き支援してまいります。

〇都市整備局長 東急線蒲田駅と京急蒲田駅とを結ぶ新空港線、いわゆる蒲蒲線についてでございますが、本路線は、運輸政策審議会答申第十八号で、二〇一五年までに整備着手することが適当である路線と位置づけられております。本路線の整備につきましては、多額な事業費のほか、事業採算性、東急線と京急線との線路幅の違いなど、さまざまな課題がございます。
 都といたしましては、引き続き、区を初めとした関係者間で議論を重ねるなど、必要な対応を図ってまいります。