文書質問趣意書 2015年 都議会第2回定例会 6月22日

小竹ひろ子(文京区選出)

都立小中高一貫教育校の構想について
公正で民主的な教科書採択について

一、都立小中高一貫教育校の構想について

 6月18日、小学校から中学校までの義務教育を一貫して行う「義務教育学校」、いわゆる小中一貫校を新たな学校の種類として設置可能とする学校教育法の改定案が可決、成立しました。
 東京都では、猪瀬前知事が2012年12月の就任直後の記者会見で都立小中高一貫校の設置について触れ、都教育委員会は2013年4月に「都立小中高一貫教育校基本構想検討委員会」を設置しました。同検討委員会は同年8月に「中間まとめ」を発表しましたが、その後は、2014年10月の第14回会議を最後に会議を開催しておらず、今後の方向性については、学校教育法改定の内容を踏まえ検討する予定と聞いています。
 都立小中高一貫校の目的は、理数分野に関心や適性のある子どもの能力を高め、日本の科学技術の発展をけん引するとともに世界に貢献できる人間を育てることです。教育課程を小学1〜4年生、小学5〜中学2年生、中学3〜高校3年生の4年ごとの区切りで編成し、校舎の候補地を小学1〜4年生は目黒区にある旧都立芸術高校跡地、小学5〜高校3年生は武蔵野市にある都立武蔵高校および同校附属中学校としています。
 理数系のエリート育成を目的とした小中高一貫校を都立で設置することには、都民や教育関係者、学者などから疑問の声があがっており、慎重な検討が求められます。

 第1に、小中高の12年間を4年ごとに区切り一貫教育を行うことの問題です。
 品川区では10年前から構造改革特区を利用して小中一貫教育を実施し、小中だけなので4−4−4ではなく4−3−2で区切った教育を行っています。しかし、同区が2013年に区内小中学校の全保護者を対象に行ったアンケートでは、「義務教育を4・3・2のまとまりで考えることは有効であると思う」かとの問いに、「思う」7%、「やや思う」27%、「あまり思わない」44%、「思わない」18%と、否定的な回答が6割以上を占め、支持を得ていません。
 小中一貫校の教員や大学の研究者なども、小学校4年で区切るやり方は、さまざまな教育活動のリーダーとして大きく成長する小学校高学年の成長・発達がうまく保障されないと指摘しています。小学校高学年の発達段階は「自分はできる」「やればできる」といった自己有用感が育つ時期で、高学年としてそれが十分に獲得されることが中学校入学後の成長に大きくかかわってくるとのことです。また、中学校のような教科担任制や生徒指導が5年生から導入されることが適切でなく、「荒れ」など子どもたちに影響が出ているとも指摘されています。
 私も現場の先生からお話を伺いましたが「5、6年生の活躍の場がない。飯ごう炊さん1つとっても、小5〜中1のくくりでは、小学生の感想は『7年生が作ってくれておいしかった』と受け身になってしまう。本当は5年生も下級生に作れる力があるのに」「一方で、4年生はリーダーの役割を求められるが、4年生にまだそれだけの力がない」「4年生はまだ大人の言うことを素直に聞く時期だが、5、6年生は自分で考えはじめる。その時に学校のリーダーとして子ども同士で主体的に活動をつくりあげる力をつけないとうまくいかない」と述べられていました。
 都立小中高一貫教育校では、小学校4年生までと5年生以降では校舎も移動する予定ですから、こうした問題がより強く生じることが懸念されます。
Q1、都教委は、教育課程を4−4−4に区切ることで懸念される上記のような問題点について、どう考えていますか。

Q2、4−4−4に区切ることが効果的だとする、広く支持されている検証結果があればお示しください。

 「中間まとめ」では、「小中高一貫教育は義務教育を一貫して受けることができるといった小中一貫教育の良さと、中学校から高等学校への進学の際に受験がないことから学校生活が連続し、自らの興味・関心に応じた学習や活動に集中できるといった中高一貫教育の良さの両面を併せ持っていると考える」としています。
 しかし、先の品川区のアンケートでは、「小中一貫教育はよいとりくみだと思うか」との設問にたいしても、「思う」は1割程度、「あまり思わない」「思わない」と小中一貫校のとりくみを評価していない保護者が6割近くにも達しています。また、小中一貫校で学ぶ小学生の約3分の1が、進学先として自校を選んでいないとのことです。
Q3、品川区の保護者からは小中一貫教育が必ずしも評価されず、実際に自校以外の中学に進学する生徒も多いことからも、小中一貫教育の教育上のメリットは多くないように思いますが、どう考えますか。

 第2に、小学校段階から理数系のエリートを育成することに疑問の声が上がっています。
Q4、都立小中高一貫教育校を設け理数系のエリート教育を行うことは、教育を小学校段階から複線化し、すべての子どもたちへの平等な公教育制度を解体することにつながると考えますが、いかがですか。

Q5、学校教育法では、小中学校および義務教育学校は普通教育を目的とすることになっており、理数系の専門教育を重視した学校は問題があるとの指摘がありますが、どう考えていますか。

Q6、小学校段階から理数系の適性のある子どもを選別し、理数系に重点を置いた教育をすることが効果的だとする研究結果があれば、お示しください。

Q7、小学校入学前に理数系への適性や資質を見極めることは困難だとの意見がありますが、どう考えますか。また、入学者選抜の方法として保護者面談を取り入れることも検討しているようですが、保護者面談の評価を合否に影響させることは公立学校として公平性に問題があるのではないですか。

Q8、「中間まとめ」では、学習指導要領に示された教育に加え、理数分野に関する学習に重点を置くとともに英語教育に関しても重視するとしています。当然、授業時間が多くなると予想されます。品川区では授業時間が文部科学省の標準時間をはるかに超えて、小学校1年生では年60時間増、2年生からは35時間増となっており、子どもたちの負担が重いうえに、クラスの活動や子どもたちの自主的な活動を十分に行うことができないと聞いています。
 都立小中高一貫教育校の場合は、授業時間増に加え、通学時間も長くなると予想されます。より子どもたちの負担が重くなり、また他の教育活動にも影響が及ぶことが懸念されますが、いかがですか。

 「中間まとめ」に示されている「都立小中高一貫教育校設置に係る保護者意識調査」では、「小学校1年生が自宅から学校までの間を1人で無理なく通える範囲」として、72.8%が「30分以内」と回答しています。実際に、公立だけでなく私立小学校を選ぶ際も通学時間は重要な要素となっています。
Q9、小学校1年生が、都内全域から、4年生までの校舎が設置される目黒区まで通学するのは極めて困難ではないでしょうか。いかがですか。  「中間まとめ」の「保護者意識調査」ではまた、「将来、社会で活躍していくために必要だと思う資質や能力」という問い(2つまで回答)について、「自分の考えや気持ちなどをうまく表現できる力」が72.2%、「社会人として必要となる一般的な知識や教養」が60.7%と、他の選択肢に比べ段違いに高くなっています。
Q10、このことからも、都民や保護者が小中高等学校教育に求めているのは、まず、主体的に生きることのできる1人の人間としての成長・発達だと思いますが、いかがですか。

 教育上の効果が明らかでなく、先行実施の事例では数々の問題点が指摘され、しかも一部の理数系エリート教育に特化した都立小中高一貫教育校の設置は見送るべきだと考えます。

以 上

二、公正で民主的な教科書採択について

                 4年毎に実施する中学校教科書の採択替えが、今年夏に行われます。教育委員会は教科書採択について、教科用図書選定審議会に諮問し、その答申に基づいて教科書の調査研究が始まっています。
 教科書採択は、東京の子どもたちがその教科書を学んで成長・発達するために、一番ふさわしいものを選ぶものであり、そのためには教科の専門性を持ち、実際に教科書を使って子ども達の反応や興味関心を知ることの出来る立場にいる教員の意見が尊重されることが欠かせません。
 現在の教科書採択は、教科書調査員が調査研究して作成した調査研究資料、教科書採択資料を教科用図書選定審議会が答申し、その資料を参考に教育委員会がその判断と責任で採択します。教科書は中学校で9教科104冊と膨大な量であり、読むだけでも大変です。また教育長と5名の委員は各教科の専門家でもなく、日常的に生徒に接しているわけでもありません。従って、教育委員会が専門家である現場の教師の意見をしっかり反映し、審議会の答申を尊重するのは当然のことです。
 日本政府も採択した、ILO・ユネスコの教員の地位に関する勧告の61項に「教員は職責の遂行にあたって、学問の自由を享受するものとする。教員は生徒に最も適した教具及び教授法を判断する資格を、特に有しているので、教材の選択及び使用、教科書の選択並びに教育方法の適用にあたって、承認された計画の枠内で、かつ教育当局の援助を得て、主要な役割が与えられるものとする」と教員には教科書選択の主要な役割を与えられるべきだとしています。
 アメリカ・イギリスなど多くの国々では、学校や教員が教科書の選択を行っています。教育行政機関だけに採択権限があるのは、日本と中国ぐらいのものです。
Q1 都立学校の中学校用の教科書採択に当たって、必要な専門性を有し、児童生徒に対して直接指導を行っている教員が果たす役割について、都の認識を伺います。

Q2 都立中学校(中等教育学校前期課程を含む)は教科書採択資料に基づき、各学校ごとに採択することになっています。2011年以降、全教科で全校同一の教科書が採択されているのはなぜなのか、伺います。

Q3 それぞれの学校の教員が教科書を選定し、それにもとづき採択を行っている都立高校では、学校ごとにさまざまな教科書が採択されています。都立中学校(中等教育学校前期課程を含む)においては、教科書ごとの特徴や学校現場の意見などを踏まえた教育委員会の判断が保障されないため、一律の教科書が採択されているのではありませんか。

 参考となる調査研究資料は、専門性のある教員等の綿密な調査研究が必要です。都教育委員会のこの間の調査研究資料は、教科書が取上げている事項(人物・事象等)の記載の有無や箇所数が中心であり、それをどのように取上げているのかや、現場で活用する上での評価などはありません。文部科学省も評定することを禁じていません。調査研究に基づいて、子どもたちがより良く学ぶことができるような採択が行われるようにするためにも評定を表示すべきです。
Q4 都として各学校の教員の意見をきちんと集める必要があるのではないでしょうか、少なくとも調査研究資料は、各教員の意見を反映したものに改善するとともに、良い点や問題点などの評定を示したものに改善することを求めます。

Q5 教科書の見本を現場の教員が目を通せるようにするためにも、各学校に1セット置く、見本の冊数が不足する場合でも十分な期間の余裕をとって回覧することをもとめますがどうですか。

 2011年の教科書採択にあたり都教育委員会は、都立中学校(中等教育学校)の歴史および公民に育鵬社版を、都立特別支援学校(聴覚障害・肢体不自由・病弱)の歴史に育鵬社版、公民に自由社版を採択しました。これらの教科書は、戦争を肯定する歴史観や、人権尊重より国への忠誠を強調する、日本国憲法の改定を誘導するなどの内容について、多くの専門家から問題が指摘されています。  今年は、戦後70年の歴史的節目の年です。日本の侵略戦争と植民地支配を美化し正当化する議論は、今日の世界では通用するものではありません。アジア・世界の諸国との真の友好を進め平和な国際社会を築くためにも、歴史にそむく教科書の採択はふさわしくありません。  また都教育委員会は、実教出版の「高校日本史A」及び「高校日本史B」の国旗・国歌法に関する「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」との記載が、都教育委員会の考え方と異なるため、都立高等学校において使用することは適切でないとの見解を発表しています。検定教科書であるにもかかわらず、各都立高校では同教科書を選定することを事実上禁止されています。
 教科書は歴史の展開や文化・社会のありようも含めて、人類の知的達成を次の世代に伝え、生徒が自ら考え判断する知性を育むための教材です。
Q6 様々な意見や考え方のあるものについて、都教委の考えと違うという理由で生徒の目にふれないようにする、認めないと言うやり方は、民主主義とは相容れないのではありませんか。見解を伺います。

Q7 「実教出版株式会社の教科書「高校日本史A(日A302)」及び「高校日本史B(日B304)」を都立高等学校(都立中等教育学校の後期課程及び都立特別支援学校の高等部を含む。以下「都立高等学校等」とする。)において使用することは適切ではないと考える」とする都教委区委員会の「見解」を撤回することを求めます。

 教科書採択にあたっては地域住民や保護者の意見も重要です。
Q8 都立学校の教科書採択にあたり、地域住民や保護者の意見をどのように反映させているのかを伺います。

Q9 中学校の教科書採択にあたり、都教育委員会の会議の場で議論も意見表明も議論もほとんどなく、都民や保護者はなぜその教科書が選ばれたのかわかりません。都教委として各教科書を選んだ理由を明らかにし、説明責任を果たすことを求めます。

Q10 都民に開かれた教育委員会にするために、教科書採択を行う教育委員会は、希望者が全員傍聴できるよう、規則を改正し広い会場を確保することが必要です。いかがですか。

以 上