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■ 議会での質問  日本共産党東京都議団

本会議 一般質問

古館 和憲(日本共産党・板橋区選出)  二〇〇二年六月一九日

-- 目 次 --


都立病院統廃合計画に、住民、医療関係者、地元自治体から反対意見
 石原知事がおしすすめている「都立病院改革マスタープラン」の、重大な問題となっているひとつが、老人医療センターと豊島病院の統合・民営化という方針であります。これにたいし地元板橋区は、統合も民営化もすべきではないという、「マスタープラン」と明確に異なる意見を明らかにしています。これまで八王子や清瀬小児病院の廃止方針についても地元市から「反対」が表明され、世田谷区も母子保健院の存続を求めてきました。
 知事、このように住民や医療関係者だけでなく、地元自治体から、「都立病院改革マスタープラン」にたいし、異論や反対意見が相次いでいることを、どう受け止めていますか。

老人医療センター・・・区、議会、医師会が一致して「今のまま存続を」
 老人医療センターは、日本最初の高齢者専門病院であり、百三十年の歴史をきざんだ養育院の一施設として、医療と福祉、研究の三位一体の連携にとりくんできました。高齢者やその家族は、「あの病院があるから安心だ」「差額ベッド料もなしで、最高の医療がうけられる」と話しています。区医師会でも、高齢者の麻酔のノウハウや、心電図のファクス診断、骨粗しょう症の検査などのアドバイスをうけ、地域医療連携に重要な役割をはたしていることが高く評価されています。だからこそ、住民はもちろん、板橋区、区議会、区医師会がみな一致して、老人医療センターは「今のまま存続を」と声をあげているのです。

「チーム医療」・・・全国に誇る先駆的・モデル的事業で大きな成果
 また老人医療センターは、全国にほこる先駆的・モデル的事業にとりくみ、大きな成果をあげています。その代表例が、専門用語でCGAとよばれる手法による「チーム医療」です。その内容は、医師、看護士、リハビリ、薬剤、検査、放射線、ソーシャルワーカーなどの専門家がいっしょになり、総合的に、患者さんの治療と病気の再発防止、生活の質・QOLの向上をはかるものです。これは「全人的・包括的医療」ともよばれ、患者の医療面だけでなく、身体機能、精神、社会生活など多面的に評価し、ケアと治療を総合的に推進するものです。
 こうした「チーム医療」は欧米ではすでに高齢者医療の中核になっているものであり、効果もはっきりしていますが、日本では、ほとんどとりくまれていないのが実態です。試行錯誤がともない、手間暇かかる不採算医療だからにほかなりません。
 「都立」で東京都が責任をもって運営しているからこそ、民間ではできない、こんな貴重な仕事ができるのです。国もようやく、急速に進行する高齢化社会にむけ、高齢者の全人的医療の重要性に気づいて、国の政策的医療の課題と位置づけ、愛知県に国立長寿医療センターの整備をすすめています。そこは長寿研究センターも併設しており、都の老人医療センターと基本的に同じ方向を、国の十カ年戦略で具体化してきたものです。そのときに東京都が先駆的にとりくんできた老人医療センターを民営化し、手放そうというのは逆行と言うほかありません。
 私は、今まで話してきた「チーム医療」にとどまらず、介護予防や、健康で長生きできる健康寿命をのばす長寿医療など、都の老人医療センターがはたすべき役割は、今後ますます重要になると考えます。知事に伺いますが、「民営化先にありき」ではなく、老人医療センターが長い歴史のなかでたくわえてきた成果を、都民全体の財産として維持し、ひきつづき東京都として責任をもって発展させることこそ重要ではありませんか。答弁を求めます。
 私は先日、順天堂大学に委託して開設されたばかりの都の江東高齢者医療センターを視察しました。そこのドクターは、順天堂が高齢者医療にとりくむのははじめてで、手探り状態だと率直に話されていました。当初の企画書には、全人的・包括的チーム医療にとりくむことが書かれていますが、まだ実施できる見通しがありません。そのうえ残念だったのが、実績をもつ板橋老人医療センターとの連携や相互交流が、位置づけられていないことです。
 いまやるべきは民営化ではなく、東京都老人医療センターの実績とノウハウを、まずは順天堂が運営する江東高齢者医療センターにたいし、都として責任をもって普及拡大し、定着させることこそ必要であります。見解を伺います。

地域医療、「都立」ならではの行政的医療の役割も重要、豊島病院は公立病院として存続を
 つぎに豊島病院について伺います。板橋区は、豊島病院は区移管の可能性もふくめて検討しており、都との協議に入っていますが、これは、都がうちだした老人医療センターとの統合にも、民営化にも反対との立場からの提起であります。
 豊島病院は、百年余の歴史を通じて、「いつでも、だれでも、安心してかかれる病院」として、地域住民との信頼関係をきずいてきました。三年前に全面改築され新規オープンしましたが、地域医療にはたしてきた役割をひきつぎ、さらに発展させてほしいというのが区民の願いです。同時に、都内で四つしかない精神科救急、未熟児室をそなえた周産期医療センター、末期ガン患者の緩和ケア、アレルギー疾患の対応、障害者の歯科治療など、「都立」ならではの行政的医療の役割も重要なものです。
 豊島病院は公立病院として存続し、現在の医療水準を低下させてはならないというのが、区民と板橋区、区議会、区医師会の総意であります。都が、これにこたえることこそ求められていると思いますがどうでしょうか。いわんや、区との合意なしに民営化を強行してはならないと思いますが、所見を伺います。

地域企業と密着し、集積地域に根をはった研究機関に発展を
 つぎに、ものづくりの支援についてです。
 中小企業、なかでも製造業をとりまく経済環境は、政府の「景気は底を打った」という宣言とはウラハラに、危機的状況を脱する兆しはみられません。
 わが党は、これまで、製造業の生き残りのための提案をおこなってきましたが、今回は、先ごろ、発表された中小企業対策審議会の中間答申もふまえ、技術開発の支援と集積のメリットを生かした支援について提案をおこないたいと思います。
 わが党は、この立場から、製造業の生きのこり支援のうえで、試験研究機関が果たしている役割に着目し、函館の北海道立工業技術センターや青森の県立工業試験場と周辺企業をたずね、そのとりくみを調査し、勉強してきました。
 それらのとりくみに共通しているのは、研究機関が地域企業と密着し、試験・研究にとどまらず、商品化や経営が軌道にのるまでの支援など、東京の試験研究機関では、見られないとりくみをすすめることで、成果をあげていることです。
 北海道の函館にある道立工業技術研究センターの場合、この地域の企業が、かつて造船や船舶機械などの、いわゆる「海の上」の産業の機械製造が中心であったものが、産業構造の変化で衰退しはじめたときに、支援にのりだしたことで、「陸の上」のものづくりへの転換を可能にしました。
 ある船舶用のランプなどを製造していた老舗の鋳物企業の場合は、周辺のデザイン会社や木工業者など五つの企業と協同組合をつくり、技術センターの支援をうけて、小電力で光を発光するエレクトロ・ルミネッセンスという製品を開発しました。この製品は、高い評価を受け、ドイツの高級乗用車、メルセデスベンツで採用されるに至りました。
 また、技術センターの隣にある研究・創業支援のためのインキュベーター施設がありますが、同社は、技術センターと共同開発した技術を製品化し、さらに販路を開拓し、収益をあげるまで、このインキュベーター施設を活用しました。技術センターとインキュベーター施設がいったいとなった支援があって、はじめて軌道にのせることができたとの話しでした。
 また、青森県弘前市にある県立工業試験場の場合は、最大の産業であったみそ、醤油の生産が海外に流出するもとで、この地方の特産品である津軽塗りを生きのこさせるために、木材などを高熱処理することであたらしいセラミック素材の開発に成功したということです。この技術は、漆器や燃料電池の材料などに活用がひろがっています。これらは、地方都市での経験ですが、東京でも、こうしたとりくみに学び、産業技術研究所を中心に、集積地域に根をはった研究機関に発展させる必要があります。

主な集積地域に、インキュベータ施設とセットになった産業技術研究所を
 最近、産業技術研究所の所長に就任した井上滉さんは、民間から起用された方ですが、ある都庁紙に、「予算の少なさにびっくりした」と語ったことが紹介されています。
 産技研の拡充は、これまでも関係者からつよく要望されてきたものですが、この際、予算を大幅に増やし、人を十分に配置することが、かかせないと考えますが、知事の見解をうかがいます。
 紹介した二つの経験は、中小企業の支援は、それぞれの企業がつちかってきた技術や人材、地域のネットワークなどの資源が生かされてこそ、はじめて、力を発揮するものとなることを示しています。
 この点で、九六年にだされた試験研究機関のあり方報告書は、「試験研究機関が試験、研究、指導を通じて蓄積した技術力を発揮している事業」について、「これらの技術審査や検査、フォーラム、シンポジウムへの出席や、研修生の受入。指導員の派遣等の事業については、予算上も、定数上も正式に試験研究機関の事業とは認知されていない」と指摘し、「試験研究機関の本来の業務として位置づける必要がある」と述べています。
 そこで、北海道や青森などでおこなわれている、技術審査や検査、周辺企業の訪問指導や交流、国への補助金申請など生きた支援活動も参考にして、拡充することを提案するものですが、知事の答弁をもとめます。
 また、東京の場合、函館や弘前などとくらべて、地域もひろく、企業数も業種もおおく、多様です。函館のような生きた研究施設とするために、おもな集積地域ごとに、インキュベーター施設とセットとなった研究施設を設置するなども、今後の課題と考えますが、知事の見解を伺います。

機械・金属、アパレル、印刷・製本などの集積地域の支援を
 つぎに集積のメリットを生かした振興です。
 中小企業対策審議会の答申のとりまとめにあたっては、現在の、都の施策の延長にとどまることなく、実効性のある提案が期待されています。たとえば、東京を代表する機械・金属、アパレル、印刷・製本などの集積地域の支援は、今後も、中小企業対策の重要な柱の一つとなると考えるものですが、どうか。
 また、そのためのメリハリを付けた支援のしくみづくりが欠かせませんが、あわせて、知事の見解を伺います。
 地元の板橋区でも、大田区でも葛飾区でも、工業集積地域活性化事業が終了した地域では、区独自に予算を確保して継続しています。こんなに要望のつよい事業をなぜ、うち切りにしてしまうのですか。これでは、いくらすばらしい答申が出されても、絵に描いたもちになるだけではないですか。知事の見解をもとめて、質問を終わります。
以上


〇知事(石原慎太郎君) 古館和憲議員の一般質問にお答えいたします。
 都立病院の統廃合と中小企業振興についてでありますが、さきに、前回に申しましたけれども、都立病院の統廃合による医療改革は、あくまでも特定地域のものではなくて、都全体、都民全体の医療の効率を向上させ、都民全体の医療ニーズにこたえるためのものであります。
 また、中小企業振興についてでありますが、中西議員の質問にもお答えしましたけれども、東京は、日本の中でも産業の一番肝要な部分を支える作業をしている中小企業はたくさんあるわけでありまして、こういったものの命運が実は国の命運を左右するわけでありますけれども、いずれにしろ、既存の振興策も制度疲労を起こしておりまして、そこで、都のものづくり振興のあり方について、中小企業振興対策審議会にも諮問しております。
 個別事項に関しては、担当局長からお答えいたします。

〇病院経営本部長(櫻井巖君) 都立病院に関する二点のご質問にお答えしますけれども、まず、都立病院改革マスタープランに対する各方面からのご意見についてでございますが、都立病院は、今知事が申し上げましたように、都民すべてにとってかけがえのない財産でございます。その改革に当たっては、全都を視野に入れた医療提供体制を構築していく必要があると考えております。
 そのため、広域的な医療は東京都、住民に身近な医療は区市町村という役割分担を踏まえまして、さまざまなご意見等も参考にしながら、都立病院の再編整備等を進めるなど、改革を着実に推進し、都民に対する総体としての医療サービスの向上を目指してまいります。
 次に、都立豊島病院についてでございます。
 豊島病院は、高齢者医療センター併設地域病院として再編整備することとしております。平成十六年度の統合民営化に向けまして、現在、運営理念や医療機能などについて検討を行っているところでございます。
 一方、都立病院改革マスタープランでは、地域医療の確保の観点から、区市町村が都立病院の移管等について要望してきた場合には、これを前向きに受けとめることとしております。
 このため、地元自治体等から移管等に関し、明確な意思表示等がなされた場合には、十分協議を行うなど弾力的に対応してまいります。

〇福祉局長(前川燿男君) 高齢者医療について二点のご質問にお答えいたします。
 まず、老人医療センターでございますが、老人医療センターは、複数の疾患をあわせ持つことが多い高齢者に対し、身体的、精神的、社会的状況を総合的に評価をし、チーム医療を行うなど、高齢者医療に先駆的、モデル的に取り組んでまいりました。今後、高齢化が急速に進展する中で、これまで老人医療センターが培ってきた高齢者医療の一層の充実と普及拡大が大きな課題でございます。
 このため、都立病院改革マスタープランにも明示いたしましたとおり、老人医療センターにつきましては、都立直営の制約を外し、弾力的かつ効率的な経営が可能となるよう民営化することとしたものでございます。
 次に、高齢者医療の普及拡大についてでありますが、老人医療センターがこれまで先駆的に取り組んできた、いわゆるCGA、高齢者総合機能評価に基づくチーム医療などの高齢者医療のノウハウにつきましては、医師、看護師など医療従事者の相互交流や実務研修等を通じて、お話しの江東高齢者医療センターにも伝えていく方針であります。
 このようなノウハウの承継とともに、高齢者医療の普及拡大のためにも、老人医療センターの民営化は着実に推進してまいります。

〇産業労働局長(浪越勝海君) 中小企業支援に関する五点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、都立産業技術研究所の予算、人員についてでございますが、都は、中小企業のものづくりを支援するため、厳しい財政状況のもとで、国などからの資金導入や産・学との連携強化を図るなど、さまざまな工夫をし、予算、人員の有効活用を進め、中小企業に対する技術支援の強化を図ってきたところでございます。
 次に、試験研究機関の業務のあり方についてでございますが、都は、技術開発助成金の技術審査や検査、企業の訪問指導など、複数の試験研究機関の専門分野にわたる事業については、局で一元的に予算を計上しているところでございます。
 また、その実施に当たっては、各試験研究機関の専門的な技術力を有効に活用し、本庁と各機関が一体となって取り組むことにより、中小企業に対する技術支援をより効率的、効果的に推進しております。
 次に、産業集積地ごとにインキュベーター施設とセットとなった研究施設の設置についてでございますが、都の中小企業に対する技術支援については、産業技術研究所や、城東、城南、多摩地域の拠点施設であります中小企業振興センターが実施をしております。
 また、インキュベーター施設としては、空き庁舎の活用や、区市等の創業支援施設に対する助成等により整備を進めているところでございます。これら施設の入居者に対しては、東京都中小企業振興公社などにより、経営、技術の支援を行っております。
 次に、集積地域の支援など中小企業対策についてでございますが、現在、中小企業振興対策審議会では、一つとして、中小企業のものづくりを支援するための規制改革や税制のあり方など、広範な効果が期待できる環境の整備、二つとして、意欲ある中小企業の技術力やマーケティング力の向上などを図るための支援策、三点目として、ものづくりを支える人材の確保、育成策など、幅広い観点から審議をいただいております。
 今後、答申を踏まえ、振興策について検討してまいります。
 最後に、工業集積地域活性化支援事業についてでございますが、本事業については、平成八年度から毎年四地域、合計二十地域を指定し、平成十二年度をもって地域指定を終了したところでございます。これは、サンセット事業として、指定後五年間で事業を実施するものでありまして、事業がすべて終了する平成十六年度に、その成果を総括した上で、地域の工業振興のあり方について検討をする予定でございます。