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■ 議会での質問  日本共産党東京都議団


二〇〇二年第三回都議会定例会 文書質問趣意書

提出者 松村 友昭(練馬区選出)

一 アニメ産業振興について

 日本のアニメは、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」がベルリン映画祭で最高賞を受賞するなど、世界的な注目を集めています。
 すでに、世界の子供たちが見ているテレビ・アニメーションの約六割、ヨーロッパでは八割以上が日本のアニメと言われるほどです。このアニメを生み出している中心は、文字通り東京です。私の住む練馬区にある東映アニメや虫プロダクションをはじめ、杉並区、新宿区、さらにジブリがある武蔵野市などに国内のアニメ製作会社の七割以上が集中しており、アニメ関連産業は東京の地場産業となっているのです。
 ところが、子どもたちに夢や希望、感動を与え、また、あこがれの仕事として映るアニメ産業の実態はどうでしょうか。
 アニメ関係団体は訴えています。「日本のアニメーションは、゛日本の貧困地帯"と紹介されるほどの劣悪な制作労働条件のなかでも制作に携わる人々の情熱に支えられ、いわば゛自助努力"で世界から注目される日本文化として成長を遂げてきました」。ところが、「一見活況に見えるアニメ業界も極端な人材不足で危機的事態」に直面しているというのです。そして、このような日本のアニメ産業の゛極端な人材不足"゛劣悪な制作労働環境"の要因は、゛欧米の五分の一"と言われるテレビアニメの低制作費にあるとしています。
 なぜ、テレビアニメの低制作費が生まれるのか。それは、アニメ産業は、中小零細企業が多く、社会的には著名であっても、資本力が乏しく、経営的に安定していないところに、著作権の権利侵害問題、不安定な受注環境と低額の下請代金が横行しているなどからです。
 この実態について、経済産業省の報告や都中小企業対策審議会答申でも、「本来プロダクションにある著作権、あるいは二次利用に関する権利を放送局が一方的に自社に帰属させる」「アニメ業界では、制作費を負担するTV局や玩具メーカーなどが著作権を確保している」と指摘しています。
 不明瞭な契約の横行や下請代金遅延防止法や下請け中小企業振興法という法律がありながら、元請けプロダクションがつぶれて、その下請けプロダクションへの代金未払いなど、違反行為がまかり通っているのです。
 都中小企業対策審議会答申では「アニメ産業を東京都の戦略産業として位置づけ育成する」と明記しています。
 私は、アニメ制作現場を身近に見てきた、また、アニメーターたちの生活実態を知る一人として、東京が世界に誇るアニメ産業を育成するには、このようなアニメ産業の構造を放置しておいてアニメ振興はあり得ないと考えます。

1 アニメ産業は、東京の産業として、教育、文化振興、まちづくりに大きな役割を果たしていますが、その実態は、緊急の改善が求められています。そのために、都として、人材育成、技術、経営、契約・取引改善、文化振興支援など総合的で体系的な産業振興策をたてるべきだと思います。
 そこで、まず、都が他の産業分野で策定されているようなアニメ産業振興プランを策定することを提案するものですが、見解を求めます。

2 また、都として、著作権の保護や親会社のルール破りを規制し、アニメ制作者側に正当な報酬が確保される仕組みなどルールづくりをおこなうつもりはないか。

3 さらに、下請け業者などの告発を待つのでなく、行政の側から系統的に「立ち入り検査」を行い、ルール破りが発見されたら、大企業・親会社にペナルティーを課すなど罰則を強化し、是正させること、発注元企業の責任を下請け全般にも及ばせること、一方的な発注の打ち切りや大幅な発注削減にも罰則が適用されるようにすることなど、国に規制強化を強く働きかけるべきではありませんか。それぞれ見解を求めます。

4 アニメ関係の主要な労働組合で結成している「アニメ共闘会議」が九四年、九六年、九九年とアニメ労働者の実態調査をおこなっています。その調査で明らかになったことは、九四年と九九年を比較すると、平均年齢が三十・〇歳から二十八・六歳。平均経験年数が八・七年から七・二年と若くて経験を積んだ労働者が減っています。一日平均労働時間は、九四年が九・六時間。九九年になると十・八時間と増えています。ところが、平均年収では、二百五十五万円から二百四十七万円に減少しています。そしてアニメ労働者の全体の四九%が年収二百万円以下であり、雇用保険未加入者も五五%と言う状況にあることが明らかになりました。
 アニメ労働者のこのような実態が放置されたままで、アニメ産業を振興していくことは極めて困難です。
 そこで、アニメ産業労働者の長時間、低賃金、社会保険未加入などの問題を解決していくためにも、都として、アニメ産業労働者の実態調査をおこなうべきだと思いますが、見解を求めます。

5 経済産業省アニメーション産業研究会の昨年の報告書(中間のまとめ)では「アニメプロダクションの中でのクリエイティブな人材の不足は大きな問題である」「従来のアニメクリエーター育成の過程が空洞化しつつある」とし、「今後、将来のクリエーターを養成していくためには、アニメ業界を目指すものがいても、現状ではプロダクションは自社で人材を養成するための資金的余裕がない。この状況を打開するためには、アニメ制作者側に十分な報酬を確保し、各プロダクションが自社で人材育成を行っていくための十分な資金が確保されることが不可欠であり、そのためにはプロダクションに十分なインセンティブが行く仕組みを構築することが必要である」しています。
 都が発表した、「転換期にあるアニメーション産業〜競争力にあふれる国際拠点作りに向けて」では、「キー・アニメーターとなるには、まず動画マンとなって、経験を積む必要がある。しかし、動画工程のほとんどを外注してきた結果、国内で経験を積む機会が減っており、将来的に影響がでてくる、と懸念される。また、『昔のように社内で人材を育成するだけの余裕が、今の制作会社にはなくなっている』ともいわれている」としています。
 そこで、さしあたっての人材育成には、アニメーションの技術者を育成するための支援の仕組みづくりが重要だと思いますが、見解を伺います。

6 私は実際に制作にかかわっている関係者から聞きましたが、民間養成機関の数や定員数は一定の規模があるが、一部の学校では、実技で必要な設備が十分でない、また「実技」と称して制作会社から仕事をやすく請け負うなどの実態や、また、広告代理店は、専門学校と連携して、学生を声優と使うため、実際の仕事では、製作者側があらためて養成しなければ使えないなど、制作に非常に苦労するとのことです。
 こうした現状を踏まえ、アニメ関係者からは、アニメーション制作会社が集中する東京に、アニメーターを養成する公教育機関を設置する必要性が訴えられています。
 アニメ産業を振興するうえで、公立で、十分整った設備、経験豊かな講師陣、十分な時間を確保した教育をおこない、優秀な人材を育成すれば、私立を含めたアニメ教育機関全体の水準向上につながります。
 先の都の報告で、「最近では、『東京よりソウルの方がアニメーターの数は多い』と言われるほど、動画工程の下請けをしてきた韓国では人材が育ってきた。それゆえ『いつか日本のアニメ制作も韓国に追い越されるのではないか』との懸念が業界には台頭している」としています。その韓国では、国営のアニメ学校があり、見学した人は「設備も整っている」と言っています。
 そこで、日本においてもアニメーターを養成する公立の教育機関を設置する必要性があるのではないでしょうか。又、少なくとも、都立工芸高校をはじめ、工業高校、高専高校などにアニメーションの専科を設けて、アニメーションの技術者を育成するとともに、都立職業訓練校にアニメーターの養成科目を設けてはどうでしょうか。それぞれ見解を伺います。

7 アニメ産業の振興にとって、技術の継承や文化の伝統を保存する場、アニメミュージアムの存在は欠かせません。そういう場が存在することによって、新たな振興策の発展が可能となるのではないでしょうか。
 ところが、現実的には、アニメ業界の仕事がデジタル化されるなかで、これまで使用していた機器類が次々処分されてきて、あの「鉄腕アトム」を撮ったカメラなどがスクラップになってしまう事態に直面しています。
 また、古い作品の保存なども、これまで個人の熱意で収集が行われています。しかし、そうした個人の方々の高齢化や個人では保存の物理的限界も来て、このままでは貴重な文化遺産の消失にもつながりかねない状況となっています。
 こうしたなか、日本初のTVアニメシリーズ「鉄腕アトム」を誕生させた練馬区を中心にアニメミュージアムを創る会の住民運動も大きな拡がりを見せ、行政の支援を求めています。
 都としてもぜひアニメミュージアム建設をとの要望に応えていただきたいと思いますが、見解を求め、質問を終わります。


二〇〇二年第三回都議会定例会 松村友昭議員の文書質問に対する答弁書

質問事項 一 アニメ産業振興について
1 アニメ産業は、東京の産業として、教育、文化振興、まちづくりに大きな役割を果たしているが、その実態は、緊急の改善が求められている。
 そのため、総合的体系的な産業振興策をたてるべきである。都が、他の産業分野で策定しているような、アニメ産業振興プランの策定を提案するが、見解を伺う。
回答
 日本のアニメは、世界市場の約六割を占めると言われ、その制作会社の約七割は東京に集積し、東京の重要な地場産業の一つです。
 しかし、制作や流通過程において様々な問題を抱えています。
 そこで、都では、平成十四年六月に、業界関係者や学識経験者からなる「アニメ産業振興方策検討委員会」を設置し、著作権問題、人材育成、デジタル化など、様々な課題と対応策について検討を行っているところです。

質問事項
一の2 著作権の保護や親会社のルール破りを規制し、アニメ制作者側に正当な報酬が確保される仕組みなどルールづくりを行うつもりはないか伺う。
回答
 昨年度、経済産業省は、「アニメーション産業研究会」において、ビジネスのあり方等を検討し、モデル契約書を発表しました。
 現在、公正取引委員会においても、「デジタルコンテンツと競争政策に関する研究会」を設置し、著作権等について検討しています。
 これらの動きを見守り、適切に対応します

質問事項
一の3 行政側から系統的に「立ち入り検査」を行い、ルール破りが発見されたら、大企業等にペナルティーを課すなど罰則を強化し、是正させること、発注元企業の責任を下請け全般にも及ばせること、一方的な発注の打ち切りや大幅な発注削減にも罰則が適用されるようにすることなど、国に規制強化を強く働きかけるべきではないか。見解を伺う。
回答
 経済産業省や公正取引委員会など、国の動きなどを慎重に見守り、適切に対応します。

質問事項
一の4 アニメ産業労働者の長時間、低賃金、社会保険未加入などの問題を解決していくためにも、都として、アニメ産業労働者の実態調査を行うべきだが、見解を伺う。
回答
 アニメ産業従事者については、作品ごとの請負やアルバイトなど就業形態が多様であることから、一般の雇用労働者として捉えられない面があり、労働条件等の一律的な把握は困難であると考えています。

質問事項
一の5 都が調査した「転換期にあるアニメ産業」では、「社内で人材を育成するだけの余裕が、今の制作会社にはなくなっている」としている。
 そこで、アニメーションの技術者を育成するための支援の仕組みづくりが重要だと思うが、見解を伺う。
回答
 現在、「アニメ産業振興方策検討委員会」において、今後の人材育成方策についても議論しているところです。

質問事項
一の6ア 動画工程の下請けをしてきた韓国では人材が育ってきた。日本においてもアニメーターを養成する公立の教育機関を設置する必要があるのではないか。少なくとも都立工芸高校をはじめ、工業高校、高等専門学校等にアニメーションの専科を設けて、技術者を育成してはどうか。見解を伺う。
回答
 現在、工芸高校では、首都圏の高校で唯一のグラフィックアーツ科を設置しており、生徒は、画像・映像・動画などのクリエイティブな制作も学習しています。卒業後は、アニメーション関係の専門学校へ進学する生徒もおり、グラフィックアーツ科の学習は、アニメーション関係の基礎的な技術を学ぶうえで有意義な内容となっています。
 都教育委員会は、今後も、生徒の進路希望に応えることのできる教育内容の充実に努めていきます。

質問事項
一の6イ 都立技術専門校にアニメーターの養成科目を設けてはどうか。見解を伺う。
回答
 アニメーターの仕事の内容については、作画監督やキャラクターデザイン、原画制作、動画制作など多様な作業工程に分かれています。このようなアニメ産業への人材は、民間専門教育機関において数多く供給されているところです。
 これらの状況から、都立技術専門校において公共職業訓練を行う必要性はないと考えています。

質問事項
一の7 練馬区を中心にアニメミュージアムを創る会の住民運動も大きな拡がりをみせ、行政の支援を求めている。都としても、アニメミュージアム建設をとの要望に応えていただきたいが、見解を伺う。
回答
 「アニメ産業振興方策検討委員会」において、貴重な資料の収集、保存及び活用方策についても議論しているところです。