■ 議会での質問  日本共産党東京都議団


本会議 代表質問 二〇〇三年二月一二日

渡辺康信(足立区選出)

自治体本来の姿勢に立ちかえって、不況に苦しむ都民の生活の防衛に全力を
「都市再生」や臨海開発に重点的に予算をつぎ込む逆立ちから、自治体が目指すべき予算に

不況に苦しむ都民の生活の防衛に全力を
国に医療費の負担増軽減を申し入れよ
緊急の中小企業、雇用対策を
石原都政の四年で最大の問題は、東京の福祉を大きく後退させたこと
老人福祉手当廃止の再検討を
都立福祉施設からの撤退や、民間福祉施設にたいする都独自補助の廃止・削減を見直せ
保育園への都加算補助の堅持、保育料の負担軽減のための区市町村の努力に支援を
東京の福祉予算の減額が突出していることは事実
長野県に学び、三十人学級を
子ども中心の教育を提案
知事の「文明工学」論、都市再生論は、開発だけに偏ったいびつなもの
超高層ビルと大型幹線道路が中心の「都市再生」より、環境、住宅、地域経済の再生を
「都市再生緊急整備地域」は見直しを
臨海副都心開発は、都財政に決定的打撃を与える
日本共産党の予算の組み替え提案は、福祉の増進を目的とする自治体が目指すべき予算
【再質問】福祉予算は減額は事実、うそをついたのは知事だ
【再質問】知事の「都市再生」は、開発野放し
【答弁】
【再質問答弁】


不況に苦しむ都民の生活の防衛に全力を

 日本共産党を代表して質問します。
 石原都政が誕生して四年がたちました。
 この四年の間、都民はかつて経験したことのない不況に苦しめられ、くわえて小泉内閣の医療改悪、社会保障負担増、不良債権処理の加速が、追い打ちをかけています。
 都内企業の倒産は過去最悪を記録し、ものづくりの拠点である大田区ではこの一年間で一割の製造業者が工場をたたんだと言われています。完全失業率も昨年、過去最悪の四一万人、六・一%を記録し、いまでも三九万人の人が仕事がまったくなく路頭に迷っています。
 勤労者世帯の実収入も五年連続で後退し、六八万円もの減収になっています。国民健康保険料の滞納は激増し、二十三区の加入者の四人に一人、私の地元足立では三五%、江戸川区では三七%におよんでいます。
 年の暮れに街金業者からとりたてを受け、店をのっとられ、新年をテント生活や車の中で迎えた方も何人もいます。こうした本当にいたましい話しを耳にするたびに、事態が、小泉内閣の一年、いやこの半年の間にますます悪化していることを実感させられています。
 いうまでもなく、地方自治体の責務は、「住民の福祉の増進」にその眼目があります。しかも、今日のような未曾有の不況のときだけに、福祉・医療の拡充をはじめ、都民の就労と中小企業の営業をまもることを通じて、都民の生活の安定を実現することは地方自治体の最優先の課題といわなければなりません。
 実際に、全国ですくなくない自治体が、きびしい財政であっても、知恵を出して、積極的に住民の生活を防衛するための模索がはじめられているのです。
 長野県では、田中知事の発案で、「脱ダム」の取組の一環として、従来型の公共事業にかわる雇用創出事業として、十万人の雇用創出をめざす「森世紀ニューディール政策」が提案され、お年寄りが幼児といっしょにすごす宅幼老所や、特別養護老人ホームの増設に重点的に財源を配分しようとしています。北海道では、今年の新卒者を一年間北海道庁が雇い、職業訓練をした上で社会参加をすすめる「スタートワーキングサポート事業」を開始しました。
 一方、石原都政は、どうでしょうか。都民のくらしを守るどころか、本当につめたい姿勢をとりつづけてきました。福祉の分野では、老人医療費助成をはじめとする経済給付的事業を次つぎ切りすててきました。失業対策では、国の特別雇用創出交付金事業から一歩も出ようとせず、中小企業対策も、みるべき不況対策は講じられず、必死にがんばっている業者の支援はたなあげされ、予算もこの四年間に一割以上も削減されてしまいました。都民のくらしと営業はまったなしです。
 東京都が、自治体本来の姿勢に立ちかえって、何よりも、不況に苦しむ都民の生活の防衛に全力をあげることをつよくもとめるものですが、知事の見解を伺います。

国に医療費の負担増軽減を申し入れよ

 わたしたちが街を歩いているなかで、寄せられる要望は本当に切実で緊急です。知事が切実な都民の要望に応えることを心からもとめるものです。
 はじめに、医療費の負担軽減です。
 小泉内閣が、昨年十月に高齢者の医療費の自己負担を三千億円も増やしたうえ、サラリーマンの医療費の自己負担を今年四月から三割に引き上げることを計画していることに対し、国民の批判が渦巻いています。
 注目すべきは、日本医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護婦協会の四団体がそろって、サラリーマンの三割負担の実施凍結や、高齢者医療費の自己負担軽減などを求める共同声明を発表し、患者負担増反対の国民運動を開始したことであります。
 日本医師会の副会長は、高齢者医療費の自己負担の引き上げにより、「在宅で療養しているお年寄りは、三倍から四倍の自己負担増という危機的な状況になっている。これは財政的な問題ではなく、生命のやりとりの問題となりつつある」と厳しく指摘しています。
 私は高齢者の医療費について三十人をこえる方から話を伺いましたが、その七割以上が、負担が「たいへん重くなった」と訴えています。「在宅酸素を中止したい。家族への負担を考えると心苦しい」「訪問医療は絶対に減らすわけにいかないので、食費を削っている」「医者にかからず早く死ねと言ってるに等しい」など、切実な声がよせられました。
 知事、国に対してものを申すと言うなら、サラリーマンの三割負担の実施凍結と、高齢者の自己負担軽減を迫る、そういう行動を起こすことこそ求められているではありませんか、見解を伺います。

緊急の中小企業、雇用対策を

 次に、中小企業の営業を守る問題とサービス残業についてです。
 不況と小泉「改革」のもとで、業者の方から、異口同音に訴えられるのが、銀行の貸しはがし、貸し渋りのひどさです。ある業者の方は、真面目に返済しているのに、利息の引き上げをせまられ、断ると融資を引きあげるとせまられたそうです。そればかりか、今回の不良債権処理の特徴は、たとえ黒字の企業であっても、将来可能性のある会社であろうと、お構いなしに、引きはがして企業をつぶすというむごいものです。
 知事、都内の銀行に対して、貸しはがし、貸し渋りの是正を、あらためてつよくはたらきかけるべきではありませんか。東京都の取り扱い銀行についてはとりわけきびしい態度でのぞむことが必要だと思いますが、答弁を求めます。
 いくつも借りている債務の借換一本化は業者のつよい要望です。制度融資については、国は昨年、債権回収機構送りとなった業者のためのセイフティーネット保証や「借換保証制度」をスタートさせました。不良債権処理に対応したセイフティーネット保証は、新規融資も受け付けており、「借換保証制度」と組み合わせることで、融資の一本化とあらたな資金ぐりが可能となるものです。
 また、銀行からの直接のプロパー融資についても、京都府がこの一月からはじめた、「あんしん借換制度」は、制度融資と一本化できるし、返済期間の延長や利息の引き下げなど業者の都合にあわせた条件変更も可能にしています。府のモデルでは、一本化の効果で利息が四分の一程度で済むようになるそうです。また、この制度は、不良債権が正常債権化されることになるので、金融機関からも喜ばれているそうです。
 東京都が、国のあたらしい制度の徹底と、保証協会が積極的に保証に応じるように指導を強めるよう求めるものです。くわえて、都として、プロパー融資の一本化のための融資をスタートさせることを提案するものです。それぞれ答弁を求めます。
 雇用創出に当たって、法律違反のサービス残業の改善は重要です。先日も、特別養護老人ホームでのサービス残業の強制が摘発されました。
 知事は、この問題について、「こういった残業手当も出さないようなていたらくの経営というのは、どこか問題がある。民間ではありえないことでもある」と発言しました。知事の発言とはウラハラに、東京では二〇〇一年一月からの一年半の期間だけでも、NEC、沖電気をはじめ大企業を中心に、六七社で十五億円のサービス残業が認定され、未払いが是正されたことを指摘しないわけにはいきません。
 重大なことは、このサービス残業は、総定数抑制政策のもとで人が減らされているために、都庁にもひろく残されており、なかには、都が裁判で未払い是正を命じられた例もあるなど深刻です。おおくの職員がサービス残業を強いられているのが実態です。
 法律を守らせるべき東京都が、サービス残業を放置することは許されません。民間企業などにサービス残業を是正させるとともに、雇用を拡大するようはたらきかけること。また、ただちに都職員のサービス残業については知事の責任で是正すべきと考えますが、どうか。

石原都政の四年で最大の問題は、東京の福祉を大きく後退させたこと

 石原都政の四年で最大の問題は、東京の福祉を大きく後退させたことと言わなければなりません。
 知事は就任直後に月刊誌で、「何が贅沢かといえば、まず福祉」だと述べ、まっ先にやったのが、高齢者や障害者の命綱であるマル福などの医療費助成や福祉手当の切りすてであり、シルバーパスの全面有料化でした。その影響は、わが党の試算では、おおよそ百二十万人の都民におよび、二〇〇〇年度以降の三年間であわせて一千億円もの負担増になっています。
 知事は、年金の充実など社会経済状況が変化したから、医療費助成や福祉手当は時代おくれになったとか、所得保障は国の責任だなどと言いましたが、これがまったく陳腐な議論であることは、今や明白です。年金は充実どころか、戦後初めて支給額が削減されます。社会経済状況はいっそう悪化し、都民生活の危機は深刻化しています。その中で国は所得保障をつよめるどころか、所得が下がっている時に大幅な負担増をおしつけようとしているのです。
 革新都政いらい、都独自の努力で実施してきた医療費助成や福祉手当から手を引き、政治の責任を果たそうとしない国にゲタをあずけて、あとは都の知ったことじゃない。石原知事、そんな姿勢でいいと考えているのですか。お答え下さい。

老人福祉手当廃止の再検討を

 介護保険が実施されて三年がたち、様々な欠陥が明らかになっているもとで、欠陥是正への都の対応も鋭く問われています。現行制度では不十分だからこそ、保険者である多くの区市町村は、最初は保険制度になじまないなどとしていた姿勢を変化させて、都内の三十二自治体が保険料軽減に、五十五自治体が利用料軽減に足を踏み出しているのです。
 わが党は、保険料については、都が一定の基準を定め、区市町村への財政支援も行うことで、少なくとも第二段階以下の方への減免制度を設けること、都独自の利用料軽減策は、所得・資産制限を緩和するなど拡充を図ると同時に、区市町村が実施している利用料軽減策を支援する本格的な制度の創設を提案してきましたが、都はこれを拒否しています。
 保険料はこの四月から、八割の自治体で値上げとなり、低所得者のホームヘルプ利用料も、三%から六%へ、負担は倍増します。ことは深刻であり、知事の決断が緊急に求められているのです。
 都は、保険料軽減について、現行制度においてきめ細かい配慮がされていると言いますが、保険料の第二段階は幅がひろすぎて、困窮世帯が多く含まれていることは、今や常識であります。六段階制が活用できると言いますが、これは高額所得者が多い一部の地域でしか役に立たないものです。利用料軽減については、「都独自の区市町村支援策を実施しており、十分対応している」と言いますが、都の制度は所得や資産の基準はあまりにも厳しいため、利用者はわずか千四百人にすぎません。これで十分だというのですか。知事、介護保険の負担軽減のため、都として本格的な対応に踏み切ることを改めて求めるものです。お答え下さい。
 知事は介護保険が始まることを理由に、寝たきり高齢者への老人福祉手当を毎年削減し、この三月で廃止しようとしています。その結果どうなったか、改めて調べましたが、手当の削減に対応するため夜間の巡回ヘルパーを断わり、家族は介護疲れでくたくたになっている、預金をとりくずし底をついたなど、痛ましいほどの実態が明らかになりました。だからこそ練馬区、江戸川区は独自の制度を創設し、政令市の半数が介護手当を存続しているのです。知事、決まったことだと言って済ますのではなく、この間の削減の影響を検証し、何らかの救済策を高じることも含めて、廃止を再検討する必要があるのではないですか。知事の答弁を求めます。

都立福祉施設からの撤退や、民間福祉施設にたいする都独自補助の廃止・削減を見直せ

 石原知事が、「福祉改革」だと言って、次にやろうとしているのが、都立福祉施設からの撤退や、民間福祉施設にたいする都独自補助の廃止・削減です。
 施政方針で知事は、「入所施設を中心とした対応から地域での生活を支える体制に改める」と述べましたが、これまで、都と福祉関係者が協力して進めてきた方向は、在宅福祉・地域福祉という新しい課題に光をあてるともに、そのための拠点として施設を積極的に活用していこうというものでした。また在宅、施設とも福祉サービスの質の向上にとって、よい人材の確保・定着は不可欠の条件であり、そのために都が積極的な役割を果たす必要のあることが確認されてきました。
 ところが石原知事の「福祉改革」は、こうした本来の立場を投げ捨て、施設の役割を否定し、人材の確保・定着に対するもっとも重要な支援策である人件費補助をも否定するものであります。
 入所施設について言えば、特別養護老人ホームの入所希望者は二万五千人をこえており、一日も早く入所したいとの高齢者と家族の切実な声が渦巻いています。老人保健施設の整備率は全国最下位です。一方知事は、施政方針で「地域での生活を支える」ためグループホームなどを整備してきたと言いました。しかしその実態は、介護保険対象の痴呆性高齢者グループホームの整備状況は、要介護高齢者に対する定員の割合で見ると、東京都はいまだ全国最下位であります。
 知事は、「真の意味での都民福祉の充実を進める」のだと言いますが、そのためには、施設も在宅サービスも、両方を質、量ともに拡充していくことが必要ではありませんか。
 都立社会福祉施設からの撤退方針を見直すとともに、特別養護老人ホームや老人保健施設を大幅に増やすよう求めるものです。
 グループホームについては、三月末に策定する第二期介護保険事業支援計画で、整備目標を抜本的に引き上げることが必要です。
 また今年度から用地費助成事業としてスタートした「暮らしの福祉インフラ整備事業」は、品川区の五カ所が指定を受けたにとどまっています。多くの区市町村が利用できるよう、枠をひろげるなど積極的な対応が必要です。
 知的障害者のグループホームである生活寮への家賃補助の拡充は、切実な都民要望です。福祉局はこれにこたえて、来年度に向け予算要求をしていたのに、知事はなぜ認めないのですか。現行の家賃助成はあまりにも不十分であり、抜本的に拡充することを求めるものです。知事、お答え下さい。

保育園への都加算補助の堅持、保育料の負担軽減のための区市町村の努力に支援を

 石原知事の福祉改革が、営利企業を中心とした市場競争に福祉をなげこみ、都民の願いにも、自治体としてのあり方にも逆行することは、保育の分野を見れば明らかであります。
 都は、営利企業による認証保育所の数を増やすことばかり熱心で、肝心の認可保育所の拡充はわきへ追いやる方向をつよめています。しかし、わが党が明らかにしてきたように、認証保育所は、保育料が高い、施設が狭い、保育士の賃金が低く働く条件が悪い、人材の確保・定着に大きな困難があるなど、認可保育所にくらべ多くの不十分さがあります。
 しかし、少子化対策が重要な課題となっている今、大事なことは、子どもたちのために最善の環境を整えることです。
 「保育園を考える親の会」が行った調査によれば、埼玉、千葉、神奈川県下の市で、公立・私立をふくめ国基準の職員配置だけで保育を行っているところは皆無といって過言ではありません。どこでも何らかの独自に充実する努力をしており、ゼロ歳児の職員配置の加算をはじめ、かつての都基準を上回る独自加算を行っている自治体もあります。秋田県は少子化対策のため、第一子の保育料をゼロ歳児の一年間、無料にする思い切った政策を打ち出しました。保育所運営の都基準を廃止して国基準まで質を低下させ、さらに国基準にも満たない認証保育所を推進するという、都の姿勢とは大違いではありませんか。
 知事、認可保育所における職員配置の国基準について、現場の実態とかけ離れた、低すぎるものと思いませんか。国基準の緩和でなく、かつての都基準に見合った都独自の都加算補助を堅持することを求めるものです。知事の見解を伺います。
 保育料については、区市町村が独自の努力で負担軽減をおこなっていることに対し、福祉局が「受益と負担の公平という観点から課題があると認識して」いるなどと、値上げを誘導するような答弁をしたことは、重大であります。少子化対策としても保育料の負担軽減のための区市町村の努力を、都として支援することこそ求められていると思いますが、見解を伺います。

東京の福祉予算の減額が突出していることは事実

12都道府県の福祉費(当初予算)の推移
(単位:億円)
  99年度 02年度 03年度 99−03年度
北海道       比較できず
宮城 558 643 600 42
埼玉 1500 1741 1528 28
千葉 921 1196 1126 205
東京 5613 5567 5283 -330
神奈川 1360 1599 1463 103
愛知 1087 2114   比較できず
京都 608 720 691 83
大阪 2271 3094 未発表 比較できず
兵庫 1310 1589 1483 173
広島 580 730 663 83
福岡     暫定予算案 比較できず
注)北海道、愛知、福岡は、福祉費と衛生費が一体のため、比較できず。

 福祉の最後に、石原都政の四年間で、福祉予算がどうなったかという問題であります。
 現時点で発表されている他府県の来年度予算案と比較すると、九九年度の福祉の予算に対し、千葉県が二十二%、二百五億円の増、京都府が十四%、八十三億円の増、広島県が十四%、八十三億円の増、兵庫県が十三%、百七十三億円の増、神奈川県が八%、百三億円の増、宮城県が七%、四十一億円の増、埼玉県が二%、二十八億円の増となっています。これに対し石原都政の東京都はマイナス十六%、三百三十億円の減額であります。来年度、児童扶養手当が市移管されるのは、どこも同じです。
 第四回定例会で、来年度予算にむけた福祉局要求が大幅減額となっていることをわが党が指摘し増額を求めたことに対し、知事は「うそっぱち」などと公党を誹謗する暴言をはいて開き直りました。結果としては、まともな説明ができず醜態をさらしたうえ、知事が発表した予算案で福祉予算は、いっそうの減額になったのであります。
 知事に冷静な答弁を求めたいと思います。東京の福祉予算の減額が突出していることは、これは事実であります。そのことをどう考えますか。厳しい財政状況のもとでも、自治体として福祉予算は増額の努力をつくす必要があると思いませんか。お答え下さい。

長野県に学び、三十人学級を

 子どもたちの教育も、福祉とともに、自治体にとって大事な仕事です。
 いま、東京の子どもたちは、差別と選別、つめこみ教育のおしつけや、大学を頂点とする受験競争のもとで、のびのびと学校生活を楽しみ、わかったと喜び合えるような学習をおくるゆとりを奪われようとしています。
 このため、学力不振や心のケアを必要とする子どもたちが増え、中学校での不登校や都立高校での中途退学は、生徒の二割近くに達しています。
 このように大事な教育の仕事で、石原都政がこの四年間におこなったことは、事態を改善させるどころか、深刻化させるものでした。たとえば、都民の「三十人学級を実施して」という願いに背を向けつづけています。また、障害児教育では、学校の建設をおこたり、教室不足で一の教室を二つのクラスで使ったり、往復三時間以上のスクールバスなどが放置されたままです。
 その一方で、知事がすすめたのが、都立高校改革では、どんどん高校をつぶして、受験競争をいっそう激しくさせることであり、「心の東京革命」などといって、もっぱら子どもへの管理統制をすすめることでした。
 こうした方向が、子どもたちが必要としている教育とほど遠いものであることは、三十人学級がすくなくない自治体で実行にうつされていることや、県、父母、教職員、子どもたちの共同ですすめられている高知県の「子どもを中心にした教育」などと、比べてみると明らかです。
 まず、三十人学級ですが、長野県では、「信州こまやか教育プラン」として、昨年四月から、小学校一年生に三十人規模学級を導入しました。
 これまで、都教委は、習熟度別少人数授業を推進し、少人数学級をこばんできましたが、その理由として、「学習は少人数がよいが、生活集団としては一定の人数で切磋琢磨が必要」といってきました。しかし、この言い分がなり立たないことは、長野県の実践が証明しています。
 わたしどもは、実際に長野県をたずねて調査をおこないましたが、長野県教委では、昨年、「三十人規模学級編成の成果と課題」と題する報告書をまとめており、「子どもたちの様子」「担任の反応」「保護者の反応」など、くわしく子どもたちと学校の変化が報告されています。
 「子どもたちの様子」では、「学習内容の定着がよい」などとされ、「担任の反応」では、「じっくり教えられる」、「ひらがな学習」で、「だれがどの字を間違えているかが、記録を見なくても頭に入っているので、指導が能率的にできる」と報告され、「保護者の声」では「少人数で先生の手がよく入り、ありがたい」とか、「兄や姉の時よりはるかに落ち着いて取り組んでいる」などと報告されています。
 生活集団とのかかわりでは、「基本的生活習慣」が定着したという報告が寄せられ、教職員団体の報告では、「仲良く遊んだり、学級の問題をみんなで話しあうなど、学級のまとまりが良くなった」「一人一人の存在感がつよくなり、おたがいに関心を持つようになった」なども成果として報告されています。
 こうした成果をふまえて県教委では、財政が許せばさらに制度の充実を検討するとしています。
 財政負担については、わが党として試算をしてみましたが、その結果は、長野と同じようにおこなうことで、小学校一年だけなら約三十一億円で三〇人規模学級に踏み出せます。三十人学級を求める署名は毎年、百数十万を超える規模で、東京都にも提出されています。問題は、知事の姿勢と決断です。
 知事、都として三十人学級にふみだすことをこばむ理由はありません。少なくとも来年度の一年生からスタートさせることをもとめるものですが、見解を伺います。

子ども中心の教育を提案

 石原知事がすすめてきた「都立高校改革」も、子どもたちに深刻な影響をあたえています。いま、この改革にそって都立高校の統廃合がすすめられていますが、この計画によって、二百八校あった高校が百八十校に廃止・統合され、定時制高校にいたっては、半分にされようとしています。また、今年の入試から、学区制が廃止され、全都一本の受験とされました。
 こうした改革の結果、子どもたちの学校生活にゆとりが生まれたのでしょうか。果たして、学力が向上するのでしょうか。はなはだ疑問です。
 実際に、これまでの高校進学者のほとんどは、住居地の近くの学校を選んでいるのであり、しかも、これまでは、たとえ一次試験で失敗しても、学区内のどこかの学校に進学できるという安心がありました。ところが、学区制の廃止は、底辺校に子どもたちが殺到する、これまで通えていた地域の子どもたちが玉突きで追い出されるという事態をうみだそうとしているのです。
 その上、学校がどんどん減っていくわけですから大変です。
 ことしの都立高校受験はまさに一発勝負です。このため、中学校では、先生が偏差値と進路指導におわれ、子どもたちは、本来の志望をあきらめて、安全と思われる学校に志望変更せざるを得なくなっているのです。
 知事は、志望状況だけを見て、エンカレッジ校に「多くの志望者が集まりました」と自慢しましたが、とんでもありません。そこなら大丈夫ではないかと子どもたちが殺到したのではありませんか。
 知事は、施政方針で「戦後の教育界を支配した悪しき平等主義は、生徒を甘やかすだけの結果しか招かず、教育の荒廃の元凶」と述べました。しかし、憲法と教育基本法に定められた、教育における平等・機会均等の原理とは、日本国民であればだれもが、その能力と適性に応じた教育の場を保障される権利を持つということであり、この考え方は、世界共通のものです。このどこが、悪しき平等というのでしょうか。
 もちろん、この理念にもかかわらず、そのやり方には問題や試行錯誤もあったでしょう。しかし、今日の、教育と子どもたちが直面している問題のおおくは、国連の「子どもの権利に関する委員会」の勧告も指摘しているように、「過度に競争的な教育制度のストレスにさらされている」ためと見るべきものです。
 日本政府も批准した条約にもとづく、国連の「子どもの権利に関する委員会」の勧告について、知事はどう受け止めるのですか。
 知事がいう競争原理の徹底を中心とする「教育改革」こそ、東京の教育をいっそう荒廃させることになることをきびしく指摘しておくものです。

知事の「文明工学」論、都市再生論は、開発だけに偏ったいびつなもの

 石原知事がこの四年間に、福祉・教育などの自治体の仕事を大きく後退させる一方で、「東京を甦らせる」といって、強力におしすすめてきたのが「都市再生」です。
 もともと、都市の再生という課題は、東京だけが直面している問題ではありません。ヨーロッパの諸都市も発展の過程で、さけて通れないテーマになっています。そして、ヨーロッパの諸都市が選んだ都市の再生の道は、環境との共生、居住の継続、伝統と文化の継承を柱に、住民参加で都市の再生をすすめるというものでした。
 また、アメリカでも逆流もありますが、都市政策のなかに成長を管理するという取り組みがすすめられています。「スクラップ・アンド・ビルド」で超高層ビルを無軌道につくり、集中を加速させることを「都市再生」といっているのは、世界ひろしといえども東京だけではありませんか。
 知事はこういうと「共産党は文明工学的な考え方が欠落している」などとわけのわからない悪罵をあびせますが、その「文明工学」という考えからいっても、環境との共生や安心してくらせる都市づくりが、その本来のめざすものです。ある大学教授の方は、「社会基盤の良さは社会の活動の効率性を間違いなく高める」と、社会的インフラの整備の役割を評価しながらも、「土木工事をやりすぎると負債を生みだし、国は滅びる」、「二一世紀の科学技術の目標として、地球と調和した人類の共生、安心して暮らせる潤いのある社会の構築」が必要だといわれています。
 知事の「文明工学」論、都市再生論は明らかに、開発だけにかたよったいびつなものと言わざるを得ませんが、見解を伺います。

超高層ビルと大型幹線道路が中心の「都市再生」より、環境、住宅、地域経済の再生を

二酸化窒素濃度の測定局全国ワースト10(2001年度平均)
順位 測定局名 都道府県 市区 年平均値
1 中山道大和 東京都 板橋区 0.055
2 松原橋 東京都 大田区 0.052
3 環七通り亀有 東京都 葛飾区 0.051
4 大阪橋 東京都 目黒区 0.050
4 西区浅間下交差点 神奈川県 横浜市 0.050
4 遠藤町交差点 神奈川県 川崎市 0.050
7 北品川交差点 東京都 品川区 0.049
7 上馬 東京都 世田谷区 0.049
7 二子 神奈川県 川崎市 0.049
10 八幡山 東京都 世田谷区 0.048
10 池上新田公園前 神奈川県 川崎市 0.048
10 天神 福岡県 福岡市 0.048
10 長崎駅前 長崎県 長崎市 0.048
単位:ppm(2001年度環境省調査結果から)

 いうまでもなく、東京では政治、経済、人口の一極集中によって、深刻な環境破壊、住宅難、慢性的な交通渋滞など、都民の生活が脅かされ、さらには、九十年代に入ってからは、製造業の空洞化と地域商業の衰退が顕著にあらわれるようになりました。
 環境では、ヒートアイランド現象が顕在化し、この百年間に、年間平均気温が三度も上昇し、都市型水害がひん発、自動車公害では、二酸化窒素の測定局で全国ワーストテンのなかに東京が七カ所も占め、東京公害裁判では、東京都の道路設置者としての責任が断罪されました。
 バブルによる住民追い出しと住環境破壊もすすみました。経済の衰退も深刻です。機械金属、印刷製本などの製造業の集積は、世界の首都のなかで東京だけに見られるものですが、それもピーク時の六割におちこみ、商店もシャッター通りが増えています。
 まさに、東京の環境、住宅、地域経済の再生は、世界のどの都市と比べても待ったなしの課題です。
 ところが、石原知事がえらんだ超高層ビルと大型幹線道路が中心の「都市再生」の道をすすめば、おおむね、首都高速道路中央環状線内側のセンターコア内で開発中、もしくは計画中のものだけで、臨海副都心の約八倍の地域が開発され、そこにつくられる超高層ビルは、延べ床面積で五五階建ての新宿三井ビル五十棟分にもなります。わが党の推計によれば、これによって、二酸化炭素が六%近くおしあげられ、自動車交通もほぼ二十五万台も呼びこまれることになります。
 三環状道路についても、たとえこれによって、知事が言うように都内への自動車の流入が抑制されたとしても、その内側で大量の自動車需要が発生するわけですから、〃いたちごっこ〃というべきものです。
 そもそも、東京の社会基盤についていえば、地下鉄をはじめとする公共交通網は網の目のように張りめぐらされ、都市部の幹線道路や高速道路も環状道路をふくめてトータルに見れば世界と比べて決して見劣りするものではなく、むしろ自動車の増え方の方が異常なのです。
 知事は、第四回定例会で、東京では、「大気汚染、産業の空洞化、改善されない住宅事情などさまざまな問題が先鋭的にあらわれて」いると述べましたが、あなたがやっているのは、自動車交通を増やす開発であり、工場をおいだしてオフィスビルをたて、都心居住といって低所得者を都心から追い出すことであり、あなたが述べた問題をいっそうひどくすることではありませんか。問題を解決する気があるのなら、私たちが提案しているように、ヨーロッパやアメリカの先進的なとりくみに学んで、都市の成長をコントロールし、環境との共生、低所得者や高齢者、サラリーマンが住みつづけられる住宅の保証、ものづくりや商店街をはじめとする地域経済の再生の道にこそふみだすことが必要なのではありませんか。答弁を求めます。

「都市再生緊急整備地域」は見直しを

 「都市再生」によるオフィスビルの過剰供給について、各方面から警告が発せられています。最近、民間による調査結果が発表されましたが、それによれば、都心を中心にした民間オフィスの大量供給によって、オフィスの空き室率が七・七五%に達し、都心五区の大型新築ビルに限った空室率は約三割に達しているという深刻なものです。しかも、「二〇〇三年問題」といわれる本格的な超高層ビルの供給はこれからで、今年、供給される高さ百米以上のビルは、二三棟、面積二五三万平方bにおよびます。
 すでに汐留や六本木などの開発がすすんでいる港区では、固定資産税の高額化や、中小マンションに空き室など、区民の生活に深刻な影響が生まれ、江東区や大田区では、都心の開発に合わせたマンション建設ラッシュで、学校や保育園の不足が深刻な問題となっています。このうえ、「都市再生」で約二三七〇ヘクタールにおよぶ「都市再生緊急整備地域」の開発がすすめられたら、一体どうなるのでしょうか。
 知事のすすめる「都市再生」は「東京を甦らせるどころか」、大企業や大手開発会社はうるおう一方、地域経済が破壊され、深刻な東京の経済をとりかえしのつかないことにしてしまいます。知事も昨年九月の記者会見で、「ビルを建てたから人が入ってくるわけではない」と認めました。過去に計画されたビルだけで、これだけ問題になっているわけですから、「都市再生緊急整備地域」については見直すべきではありませんか。見解を伺います。

臨海副都心開発は、都財政に決定的打撃を与える

 「都市再生」の目玉として、「都市再生緊急整備地域」に指定されたのが、臨海副都心開発です。
 しかし、臨海副都心開発は、今後の推移を見るまでもなく、すでに破たんは明らかです。重要なことは、この問題は、すでに過去に責任をおしつけることが許されない、石原知事自身の責任に属する問題になっていることです。すなわち、石原知事が就任後おこなったことは、まず、都民の反対をおしきっての有明北地区の埋立であり、臨海会計救済のために三会計統合をおこないあらたな都財政投入に道をひらいたことです。また、臨海道路の第二期工事の着工や臨海高速鉄道への資金援助もおこないました。
 いっぽう、これだけの手厚い支援をおこないながら、石原知事のもとで、契約、売却にいたった土地は、有明南地区のP街区のたった一つにすぎません。このため、臨海副都心開発の会計は、来年度実質二七〇億円前後の赤字となり、売却した土地の収益をあててやりくりで間に合わせるにすぎません。来年度以降、有明の丘などいくつかの区画での売却が見込まれているようですが、それらは本来、二〇〇九年から本格化する七〇〇〇億円の借金の原資として積み立てておかなければならないものです。しかし、現実には、毎年発生することが予想される巨額な赤字の埋めあわせのための資金繰りに使われて、なくなってしまう可能性が高いものです。土地を売れば売れるほど、借金返済の目途は遠くなっていかざるをえないではありませんか。
 知事、このまま開発をすすめることは、都財政に決定的な打撃を与えることになるのではありませんか。あらためて臨海副都心開発の都民参加での見直しを提案するものですが、どうか。答弁を求めます。

日本共産党の予算の組み替え提案は、福祉の増進を目的とする自治体が目指すべき予算

 来年度予算案は、長期不況にくわえ、小泉内閣の社会保障負担増や不良債権処理加速策から、都民のくらしと営業を守るという緊急課題にどう応えるのかが問われました。
 しかし、知事が提案した予算案は、残念ながら、これまで指摘してきたように、福祉や医療、雇用や中小企業対策の充実などの切実な都民要望に応えるものとはなっていないばかりか、「都市再生」や臨海開発には重点的に予算をつぎ込むという、逆立ち予算というべきものです。
 大型開発が温存された結果、投資的経費に、経常的経費に含まれる首都高速道路公団への貸付金や公債費などをあわせた投資型経費は、一兆五千億円に達し、予算の四分の一を占めるにいたっています。
 知事は、来年度予算案で一千億円都債残高が減額となると誇らしげにいいましたが、それは過去のピーク時の借金の返済期が来ただけであって、最終補正をあわせれば五百億円の減額であり、しかも、四年間を通してみれば、五五六七億円の借金を積みましたのが事実ではありませんか。
 知事は、選挙の時に、「借金財政ノー」と公約されましたが、巨額な借金の積み増しは、公約に反するのではありませんか。答弁を求めます。
 わが党は、税金の使い方を切りかえれば切実で緊急の都民要求に応えられるという立場から、今定例会に、予算の組みかえの提案をおこなうものです。この提案は、大型公共事業の見直しやムダや浪費にメスを入れることで財源を確保し、わずかな予算の組みかえでも、切りすてられた福祉の復活や介護保険の減免の拡充、子育て支援、三十人学級の実現、環境対策、生活優先の公共事業、緊急の雇用、中小企業対策などにふみだすことが可能であることを示すものです。
 わが党の提案の方向こそが、福祉の増進を目的とする自治体が目指すべき予算の方向であることを申し述べ、再質問を留保し、質問を終わります。

【再質問】福祉予算は減額は事実、うそをついたのは知事だ

 再質問をいたします。 知事は、私の質問にまともに答えず、いろんなすりかえを、あるいは、ごまかしの答弁を行いましたけれども、二点だけに絞って再質問をしたいと思います。
 知事は、四定で、我が党の福祉予算が減ったとの指摘を、うそだとまでいいました。ところが、本日は、福祉予算が大幅に減っていることには触れず、構成比は着実に伸びており、福祉施策はむしろ充実したと述べました。来年度予算案では、福祉予算額は、児童扶養手当の支給分を控除しても前年比でマイナスです。四定でうそをついたのは知事ではありませんか。四定の発言は撤回すべきです。
 また、福祉予算の構成比が伸びたと取り上げた数字は、九九年度分は分母に都営住宅関係が入り、来年度には入っておりません。同じ条件にすれば、構成比はほとんど変わらない。しかも、知事は四定では、当然減を差し引けば予算額がふえたといったが、もしその論法を使うのだったらば、当然増も引かなければおかしいと思います。九九年比でいえば、国の制度改定によって介護保険の予算が五百九十九億円もふえている。この当然増だけでも差し引けば、明らかに福祉予算は減るんです。これをどう説明するんでしょうか。同じ条件で比較するのが予算のイロハじゃないかと私は思います。この点について質問を一ついたします。

知事の「都市再生」は、開発野放し

 それから、もう一つ、知事は、またまた文明工学的な考えを持たずなどと述べられましたが、私が先ほどもいいましたように、文明工学というのは、本当は、地球と調和した人類の共生、安心して暮らせる潤いのある社会の構築といったことを含んでいることはいうまでもありません。だから、都市の成長をコントロールせよといったのであって、とにかく超高層ビルや高速道路をどんどんつくればよいという政策はおかしいと私は思います。住民のために都市の成長を管理することを受け入れないということであれば、知事、あなたの都市再生というのは、開発野放し、都市計画なき都市再生ということになるのではないでしょうか。その点について質問をいたします。
 以上、二点にわたって再質問といたします。(拍手)

【答弁】

〇知事(石原慎太郎君) 渡辺康信議員の代表質問にお答えいたします。 ご質問を伺っておりまして、あることを思い出しました。昨年、東京都のシティーセールスに浜渦副知事がベルリンに参りました。かつてのベルリン、今EUの中心になろうと思っているベルリンでありましたが、向こうの市長、知事に会って話したところが、対等の提案ではなしに、むしろ、さまざまな東京からの援助に対する陳情がほとんどであったと聞いております。そのときにそのわけなるものをただしましたら、向こうの当事者が、とにかく戦後五十年間、共産主義、社会主義のもとで過ごしてきた国民の三分の一が、にわかに自由主義経済体制に組み込まれても、かつてのおんば日傘の悪習が抜けずに、幾ら働けといっても働かない、そして、能率が上がらないということを慨嘆したそうでありますけれども、むべなるかなという感じがいたします。
 さて、都民の生活の防衛に全力を挙げよというお言葉でありますが、中小企業支援に冷淡であるとか、福祉分野の切り捨てとか、皆さんの指摘は、いつものことながら、全く当たっておりません。私は、就任以来、都民生活向上を目指して職務に精励してきたつもりでありますが、福祉については、政策内容はもとよりでありますけれども、予算に占める割合を見ても、今ほど高いときはございません。
 ちなみに、一般会計に占める福祉の割合を見ますと、私の代になりましてから、平成十五年度、九・二%、青島都政のときには、平成十一年度、八・九%、共産党がしきりに支持されました美濃部都政のとき、昭和五十三年度、六・五%であります。
 また、中小企業の振興については、平成十五年度の制度融資について、過去最大となる一兆七千五百億円の融資目標額を設定いたしました。環境対策については、本年十月からディーゼル車規制の対応として、新たな融資制度の導入など、五万台の買いかえを支援するつもりでございます。これ以上、財政的にどう算段していいのか、方法があるならば教えていただきたいと思います。
 都民福祉をより積極的に向上させるためには、長い目で見た場合、都市の再生が不可欠であると思います。三環状道路や羽田空港の整備、都市再開発などを積極的に進めることが都民生活の向上にまさにつながると思います。
 木を見て森を見ない批判、ためにする批判ではなくて、私たちのやっていること全体をとらえて批判していただきたいと思います。
 医療保険制度についてでありますが、高齢化の進展によって国民医療費が増大する一方、少子化により若年世代の負担が高まる中で、各制度、各世代を通じた給付と負担の公平化を図ることが不可避であると思います。昨年の健康保険法や老人保健法などの改正は、安定した医療保険制度を今後とも維持していくため、給付の一元化を行うとともに、国民に適正な負担を求めたものと理解しております。
 次いで、貸しはがし、貸し渋りの是正に向けた銀行への働きかけでありますが、銀行の指導監督は国の役割であります。しかし、国は十分に果たしていないとは思います。例えば、地方の末端での金融に取り組んでいる信用組合などに、過去に不祥事がございました、それによってここの監督権が国にまた還元され、そしてこの信用組合に非常に厳しい融資の基準が当てはめられたなどということは、私はやっぱり今日の時代に逆行するというか、地方における金融の事情を理解しない国の措置だと思ってはおります。このため、国に対して、昨年十一月に中小企業の資金調達の円滑化に向け、事業再生融資の創設等を提案、要求いたしました。
 都は、来年度の制度融資では、クイック型融資などの創設とともに、融資目標額を過去最大の一兆七千五百億円とし、中小企業の資金調達を強力に支援いたします。また、都の働きかけとして、制度融資を取り扱う金融機関に、昨年五月及び十月に積極的な資金供給を要請いたしました。
 次いで、都の福祉施策についてでありますが、戦後、枠組みができ上がってから基本的に見直されることがなかった国の画一的な福祉システムは、制度疲労をもはや来しておりまして、都は福祉改革を実施してまいります。
 国に先駆けた都独自の取り組みであります認証保育所や、民間企業に対する痴呆性高齢者グループホームの整備費補助の創設など、着実な成果を上げていると思っております。都民が地域の中で必要とするサービスを利用しながら自立して生活できるようにしていくことこそが、真の意味での都民福祉の充実に資するものと思っております。 一連のばらまきの経済給付的な事業の見直しは、こうした利用者本位の福祉の実現を目指す福祉改革の一環として実現し、既に都民の理解を十分に得ていると確信いたしております。
 都民福祉の充実についてでありますが、都が目指す福祉改革は、都民が高齢や障害などでケアを要する状況になっても、地域の中でさまざまなサービスを利用しながら自立して生活できる、ごく当たり前の世界をこの東京で実現することであります。こうした地域での自立生活を支えるセーフティーネットとしての施設の重要性は、いわれるまでもなく認識しております。
 都は、これまで手厚い特別助成により、高齢者や障害者の施設を着実に整備してまいりました。また、事業者間の競い合いにより、施設サービスの質の向上を実現することが重要と認識しております。こうした一連の福祉サービスの質と量の拡充を目指す取り組みについて、ご指摘を待つまでもなく、福祉改革の一環として実現していくつもりでございます。
 次いで、福祉予算についてでありますが、来年度の都の予算編成は、財政構造改革に全力を挙げて取り組みつつ、緊急課題や重点課題に集中的に対応してまいります。福祉予算についても、見直すべき事業は見直し、重点事業である障害者地域生活支援緊急三カ年プランなど、福祉改革の推進に必要な予算は十分に確保しております。また、十一年度以降、一般会計全体に占める福祉予算の構成比は着実に伸びており、福祉施策はむしろ充実していると心得ております。
 都は、大都市特有の福祉ニーズを踏まえた独自施策を積極的に展開しておるわけでありまして、サイズも、都市としての性格も違う他の地方自治体と福祉予算を単純に比較することは、余り当を得ていないと私は思います。
 さて、三十人学級についてでありますが、学級編制基準については、教育委員会が、学習集団や生活集団としての教育効果などを総合的に判断して定めているものでありまして、私としては、こうした教育委員会の方針を尊重してまいりたいと思います。
 戦後の教育界を支配したあしき平等主義についてでありますが、戦後教育の弊害の一つは、機会の平等よりも結果の平等重視という、あしき平等主義によって画一的な教育が行われ、子どもの個性や創造性など、さまざまな可能性の芽を摘んでしまってきたことであります。
 結果の平等主義を教育から大胆に排除し、あくまでも結果に対する平等ではなく、子どもにそれぞれの個性、能力に応じた教育の機会の均等を保障し、それぞれが持つ可能性を存分に発揮させるような教育こそが今求められていると思います。その具体的な取り組みの一つが、都立高校の学区制の撤廃であり、個性ある高校、進学指導重点校や体験学習などを取り入れたエンカレッジスクールなどに多くの志望者が集まったことは、都の改革が都民に支持されている証左だと思っております。 新しい時代を担う人材を育成するため、東京都は、あしき平等主義や画一的な知識詰め込み型の教育などを改め、子どもたちの持っている能力、個性を伸ばしていく教育を率先して進めていきたいと思っております。いずれにしろ、競争を悪とするような価値観は、社会や人間そのものの可能性を殺し、ダイナミズムを喪失させるものだと思っております。
 次いで、国連の子どもの権利に関する委員会の勧告についてでありますが、教育の荒廃はだれもが認めるところでありますが、過度に競争的な教育制度が事態を悪化させたという短絡的な原因だけではないと思います。戦後教育のさまざまな要因が重なり合い、現況がもたらされたと思っております。 画一的詰め込み型の教育を改めなければなりませんが、互いにやはり切磋琢磨し、成長していくための競争も、学校では当然必要であります。子どもの適性に応じた多様な教育を実施し、個性や創造性に富んだ人材を育成するために、東京から新しい教育改革を発信していきたいと思っております。
 次いで、都市再生の考え方についてでありますが、そもそも都市の開発を進めることが環境対策や中小企業対策、福祉対策と相反するという考え方は、全くの見当違いでありまして、良好な都市の開発は、環境、中小企業、福祉などの面にも必ずよい影響を及ぼすものであります。
 もちろん、私は、冒頭に申し上げたとおり、環境対策や中小企業対策、福祉対策などを重要な柱に据えながら、都政運営を行っているつもりであります。ことし十月からは、国に先駆け、ディーゼル車の走行規制を開始するし、中小企業制度融資としては、過去最大規模となる一兆七千五百億円の融資目標を設定いたしました。 教育や福祉についても、時代にそぐわなかった点を見直しているだけで、平成十五年度の予算を見ればわかるように、障害者地域生活支援緊急三カ年プランや、新しいタイプの高校の開校など、必要な予算は措置しております。
 一方、道路については、社会活動の効率性を高めるため、パリ、ロンドンに比べ、立ちおくれている環状道路の整備を急いでいるものでありまして、首都高速その他幹線道路の建設をやめることは、渋滞対策と大気汚染対策を放棄することにほかならず、都民は決してそのようなことを望んではおりません。
 都市の成長をコントロールせよとのことでありますが、都市に対する文明工学的な考えを持たずに、都市が置かれた状況を踏まえないままに、いたずらに変化や成長を押さえ込もうとするごとき主張は、到底受け入れることができません。今必要なことは、首都東京のポテンシャルを引き出し、その活力や国際競争力を回復させ、成長を促すことであります。それなしに、都民の豊かで快適な安心できる生活を確保することは難しいと思います。
 今後とも、都は、絶対的に不足する道路や空港などの交通インフラの整備を推進し、民間の力を引き出しながら、都市の機能更新を進めることにより、大都市東京を再生していきたいと思っております。このことが地域経済の再生や都民生活の向上に必ずつながると思っております。
 次いで、都市再生緊急整備地域を見直すべきとのことでありますが、東京のオフィスビルは、世界的に見ると、IT化や執務環境の快適さなどにおいて、まだまだ見劣りがしており、良質なオフィスに対する需要は極めて大きい状態であります。世界の都市間競争に打ち勝つために、また耐震性の向上という防災の観点からも、大胆に更新されていくべきものだと思います。まさにスクラップ・アンド・ビルドが今日必要とされていると思います。
 都市の更新を実現するために、公共によるインフラ整備と優良な民間プロジェクトの促進を組み合わせて進めるのが、都市再生緊急整備地域のねらいであります。都市は、それぞれの時代の要請にこたえて更新されていくこと、都市としての生命力を維持していけるものであり、それが都市のダイナミズムであると思っております。引き続き、都市再生の取り組みを積極的に進めてまいります。
 臨海副都心開発についてでありますが、この開発の目的は、業務、商業、居住、文化など多様な機能を備えた都市の形成であり、開発当初からいささかも変わりはございません。三会計を統合し、さらに財政基盤強化プランを策定し、バブル崩壊後の事業のあり方を見直してまいりました。りんかい線が全線開通したのと軌を一にして、民間企業の進出意欲が高まり、数社の進出が確実となるなど、今後の展望を切り開く上で手ごたえを強く感じております。
 広域交通基盤を整備し、魅力を生かした開発戦略を打ち出していけば、都市再生の拠点として必ずや飛躍的な発展を遂げ、国民全体の財産になると確信しております。近々、ある大きなプロジェクトを都のイニシアチブと、ある企業の提携で実現したいと思っておりますが、これが実現すれば、さらに大きな吸引力になると思っております。
 次いで、都債の発行についてでありますが、私の財政運営が、借金漬け都政にノーの公約に反するとのご指摘については、全く見当外れのことだと思います。都債は、バブル経済崩壊後の景気対策などに伴う多量発行により残高が累増し、十四年度以降、その償還が急激に増加することから、就任以来この四年間、将来の財政負担の軽減を図るため、新たな都債の発行を抑制してまいりました。
 具体的な数字を挙げていえば、平成四年度から十一年度までの都債発行額は、年平均七千六百億円に上っておりましたが、この四年間の平均では、半分の三千七百億円程度にとどめており、その結果、十五年度の予算では、実に十三年ぶりに都債残高は減少する見込みとなりました。
 また、十五年度予算では、歳入に占める起債の割合である起債依存度も、都は七・六%と極めて低くなっておりますが、一方、国は歳入の半分近くを国債に頼り、しかもその八割を赤字債が占めるなど、大きな違いがあると思います。
 都債は、発行しなければよいというものではなく、公共施設の整備などを進めるための貴重な財源であり、今後ともこれまでのような適切な取り組みを続けていけば、償還額も平準化され、健全な財政運営につながるものと確信しております。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。

〇産業労働局長(有手勉君) 中小企業対策など三点のご質問にお答えいたします。
 まず最初に、国の新しい制度や保証協会への指導についてでございますが、従来から都は、国の制度改正が中小企業の資金調達に具体的に反映できるように、迅速に制度融資の拡充を行ってまいりました。昨年十二月には、整理回収機構に債権が譲渡された中小企業者のうち、再生可能性のあるものに対する融資などを制度融資に加えました。また、今般の国の制度改正を受けまして、昨年十月から実施しておりました借りかえ融資を拡充することにいたしました。保証協会に対する要請などについては、これまでも行ってきたところでありまして、引き続き適切に対処してまいります。
 次に、制度融資とプロパー融資の一本化についてでございますが、都の制度融資におきましては、債務者が支払い不能となり、保証協会に損失が生じた場合に、都が中小企業施策の一環としまして、その損失の一部を補てんしております。金融機関のプロパー融資を都の制度融資に含めて一本化すると、金融機関の自己責任で融資した部分まで、都が損失を補てんする義務を負うことになります。都民の税金をこのような形で投入することは好ましくないと考えております。
 したがって、ご提案がありましたけれども、金融機関の自己責任によるプロパー融資を制度融資にまとめて一本化する制度は、実施できないと考えております。
 最後に、サービス残業の是正と雇用の拡大についてでございますが、サービス残業の是正など、労働基準法に基づく指導監督権限は、国が所管するものでございます。 都としても、労働セミナーや職場改善訪問事業などの取り組みを通じまして、労働時間管理の適正化のため、普及啓発に努めるとともに、緊急地域雇用創出特別基金を活用いたしまして、雇用の拡大を図っているところでございます。

〇総務局長(赤星經昭君) 都職員の超過勤務についての質問にお答え申し上げます。
 都におけます職員の超過勤務時間は、超過勤務命令簿により適正に管理しております。
 また、超過勤務の縮減につきましても、機会あるごとに各局に対して通知、指導しております。
 今後とも、管理職によります事前命令、事後確認を一層徹底してまいりますとともに、全庁一斉定時退庁日やノー超勤ウイークなどの効果的な実施によりまして、超過勤務そのものの縮減に取り組んでまいります。

〇福祉局長(川ア裕康君) 介護保険など福祉施策に関します七点のご質問にお答えいたします。
 まず、介護保険の負担軽減についてでありますが、介護保険料につきましては、低所得者の負担を緩和するため、五段階制を変えて、六段階制を導入することが可能とされております。これにより、現在、都内では新たに十五の自治体が六段階制の導入を予定しております。
 利用料の軽減につきましては、都では、国の特別対策をもとに、対象サービスを四種類から九種類に拡大するなど、都独自の支援策を行っており、利用者も拡大をしてきております。
 都としては、これらの制度が活用されるよう、保険者である区市町村を引き続き支援していくこととしており、ご提案のような新たな支援を行う考えはございません。
 次に、老人福祉手当の廃止についてでございますが、老人福祉手当を初めとする一連の福祉施策の見直しは、先ほど知事が答弁したとおり、利用者本位の福祉の実現を目指す福祉改革の一環として実施したものであり、既に都民の理解を得ていると確信をしております。したがって、再検討する考えはございません。
 次に、都立福祉施設の改革等についてでございますが、都は、直接サービスを供給することではなく、新しい福祉の枠組みを整え、その実現に向け、区市町村や民間事業者を支援していくことに比重を移す必要があると考えております。都立福祉施設は、民間移譲等を進めていくことを基本に、昨年七月に示した改革方針について着実に具体化を図ってまいります。
 なお、老人福祉施設など地域の介護基盤の整備につきましては、今後とも区市町村と十分調整し、その整備に努めてまいります。
 次に、痴呆性高齢者グループホームの整備目標についてでありますが、痴呆性高齢者グループホームは、都が推進しておりますケアリビングの重要な柱の一つであることから、TOKYO福祉改革STEP2において大幅に拡大していくこととしております。具体的な整備目標については、この考え方に基づき、区市町村と協議の上、今回改定します介護保険事業支援計画で確定をしてまいります。
 次に、暮らしの福祉インフラ緊急整備事業についてでございますが、本事業は、痴呆性高齢者グループホームや知的障害者生活寮など、地域のケアつき住まいの整備に取り組む区市町村を支援する制度であり、小規模民有地の活用、社員寮等の既存建物の改修等、区市町村がそれぞれの地域の実情に応じた多様な手法を用いることができる仕組みとなっております。
 これまで、本事業の特別推進地区として、品川区の五地区を指定しており、今後とも、区市町村の意向を踏まえ、指定を行ってまいります。
 次に、保育所の運営費補助についてであります。
 都では、多様な事業者の参入を促進する観点から、平成十二年度に、都の保育所設置認可基準を国基準と同様といたしましたが、都加算補助につきましては、基本的には従前どおり、国基準を上回る手厚い独自の補助を行ってきております。
 こうした補助につきましては、真に利用者本位の福祉を実現するという福祉改革の理念に基づき、大都市特有の保育ニーズに的確にこたえ、サービス向上に効果を発揮していくものにすべきと考えております。
 次に、区市町村の保育料負担についてでありますが、国の認可保育所の保育料設定の考え方は、保育に要した費用のおおむね二分の一を利用者全体が負担することとし、個々の保育料は所得に応じて段階的に定めております。しかし、都内区市町村は、さらに利用者の負担を軽減した独自の基準を定めており、実際の徴収額は、平均して国の徴収基準の約半分程度となっております。
 保育料の負担につきましては、基本的には、地域の実情に応じてそれぞれの区市町村が自主的に判断すべき問題でありますが、都としては、こうした実態を、受益と負担の公平という観点から課題があると認識しており、保育料について負担軽減を図る考えはございません。

【再質問答弁】

〇知事(石原慎太郎君) 共産党は、共産党ご自身の数字のレトリックをお持ちのようですけれども、福祉予算について正確な認識をお持ちでないようですから、正確な数字について局長から答弁いたします。
 次いで、都市の整備の問題でありますけれども、都市の成長をどうやって抑制するんですか。それは、人口の増殖というものは、これは要するに、隣の中国やソビエトがやっているみたいに検問を設けて制限するわけにいかない、基本的な人権の問題でもありますから。ならば、都市の機能が増殖していく中で人口がふえる、それに対応した都市の整備というのは、必然的にこれはやっぱり必要でしょう、それをしなければ、都市における生活というのは人間化しないわけでありますから。どうかそれをご理解いただきたいと思います。

〇福祉局長(川ア裕康君) 今回の質問は、十一年度の予算と十五年度の予算の比較でございまして、それにつきましては、当然減の経費を引きますと、十一年度、それから十五年度の予算額を比較しますと、十五年度の予算額が百七十七億円の増となっております。これは十一年度と十五年度の予算の比較でございます。
 十四年度と十五年度につきましては、四定で知事が答弁したとおりでございます。