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■ 議会での質問  日本共産党東京都議団


本会議 文書質問趣意書 2004年10月5日

河野百合恵(江戸川区選出)

高齢者虐待防止について

 わが党は、昨年の第3回定例会に提出した大山とも子議員の文書質問で、東京都が具体的な高齢者虐待対策を講じるよう求めてきました。被害の通報と虐待をうけている高齢者を保護する仕組み、相談・支援の専門機関の確立などを提案しましたが、都の回答は、「現行の制度の中で対応していくべきと考えている」というもので、新たな施策構築への努力はなされないまま1年が経過しました。
 この間に他県では、群馬県や三重県がいち早く事業をスタートさせていたのにつづき、ことしの第2回定例会の代表質問で指摘したように、今年度新たに、青森県、栃木県、大阪府、鳥取県、岡山県が高齢者虐待防止対策の新規事業をスタートさせています。
 東京都は一歩も二歩も出遅れましたが、去る9月29日の都議会本会議で、福祉保健局長が、「今後、虐待に早期対応するためには、住民に身近な地域において、虐待防止のネットワークを構築することが重要。このため、外部委員を含む検討組織を発足させ、区市町村への具体的支援や都民への啓発普及のあり方など、効果的な虐待防止策の検討に着手する」と答弁し、はじめて前向きの姿勢に転換したことは重要です。
 生命の危険と隣り合わせの状態に数多い高齢者が置かれているにもかかわらず、虐待を受けている高齢者自身が訴える力が弱いことなどで、児童虐待やDV被害と比べて、高齢者虐待は顕在化しにくく、それだけに救済が難しいと言われています。
 国連の「高齢者のための国際連合原則」は、「高齢者は身体的、精神的および情緒的に最高水準の状態を維持しまたその状態を回復し、発病を予防しまたは遅らせるように高齢者を援助する健康へのケアを受けなければならない。」「高齢者は、搾取ならびに身体的あるいは精神的虐待を受けることなく、尊厳を保ち、安心して生活できなければならない」と記し、高齢者の人権、尊厳の尊重を明確にしています。
 2002年4月、マドリッドで開催された国連主催の「高齢化に関する世界会議」で採択された行動目標では、高齢者虐待を防止するための法律の制定や、虐待についての意識を向上させる努力方向が示されました。
 高齢者虐待防止にむけて国際的な気運が強まっている現在、高齢者の基本的人権と尊厳擁護のために、都政が講じるべき高齢者虐待防止策について、以下、質問します。

Q1 まず、外部委員を含む検討組織を発足させて効果的な対策の検討に着手するとのことですが、すでに日本高齢者虐待防止学会が設置されているほか、東京には日本高齢者虐待防止センターや老人虐待予防・支援センターなど、先駆的に高齢者虐待防止にとりくんできた民間団体もあります。これらの学会、団体や在宅介護支援センターなど現場から外部委員をまねき、実践的な経験を十分に生かした検討をおこなうことが必要だと考えますが、見解を伺います。

Q2 また、来年度検討に着手し、その結果がでてから具体策にふみだすというのでは、高齢者虐待防止対策が実際にスタートするのは再来年度ということになってしまいます。検討をすすめるのと同時に、できることは来年度からただちに具体化することが必要です。そのための予算措置もふくめ、答弁を求めます。

 効果的な施策を確立するうえで、正確な実態の把握は欠かせません。
 今年4月、厚生労働省は医療経済研究機構に委託した「家庭内における高齢者虐待に関する調査」の結果を発表しました。虐待を受けたと考えられる65歳以上の高齢者を対象に、暴力的行為などによる身体的虐待、脅しや侮蔑・無視などによる心理的虐待、性的虐待、経済的虐待、ネグレクトと言われる介護・世話の放棄などについての調査で、在宅介護サービス事業所等の関係機関16,802ヶ所(回答6,698)と、区市町村3204自治体(回答2,589)からの回答が集計されています。
 調査の結果では、回答のあった6、698機関のうち、虐待があったと回答したのは2865機関(42.8%)、また、回答した区市町村では、「過去1年間で高齢者虐待を主たる原因として持ち込まれた相談件数は6,062人」となっています。
 虐待を受けている人の平均年齢は81.6歳で約8割が75歳以上の後期高齢者であり、女性が4分の3を占めています。そして、なんらかの痴呆症状を有する人が8割に及んでいます。虐待がもっとも深刻だった時点の高齢者の状況は、約1割が「生命に関わる危険な状態」であったほか、約半数の人が「心身に悪影響がある状態」となっています。

Q3 昨年第3回定例会のわが党の文書質問で、都として実態調査をおこなうよう提案したのにたいし、都の回答は、「国が、都を含む全国規模で調査を行なうこととなっている」というものでした。今回発表された厚生労働省調査における東京の実態について、どう把握し、分析しているのか伺います。

Q4 厚生労働省の行なった高齢者虐待の調査は、家庭内におけるものです。高齢者虐待は家庭内で起こるものだけでなく、病院、診療所、老人保健施設、特別養護老人ホーム、グループホームなどの各医療機関、介護施設などでも発生しています。とりわけ、大都市は人間関係が希薄で、虐待の迅速、正確な実態把握が難しいとされています。国の調査にとどまらず、家庭及び施設における高齢者虐待の実態調査を大都市である東京都だからこそ、独自で行なうことが重要と考えます。家庭と施設を含めた総合的な実態調査の実施を求めます。お答えください。

 家庭内での虐待の多くは、介護で疲れきった家族が、心ない言葉で高齢者を傷つけたり、暴力行為に及んでしまうものです。在宅介護の努力に限界を感じ、特別養護老人ホームに入所申し込みをしても、数年も待たされてしまうという介護基盤の著しい不足が虐待発生の一因になっているとの指摘もあります。
 家庭だけでなく、施設においても心痛む虐待が数々起こっています。病院や介護施設では、看護、介護にあたる職員の数が少ない、経験が未熟であることなどで、適切なケアが行えず、虐待行為を生み出してしまうと言われています。2000年からスタートした介護保険は、「介護の社会化」をうたっていますが、残念ながら、介護基盤整備もサービスの質や量も、深刻な実態に追いつかないまま今日を迎えています。

Q5 家庭、施設、それぞれの場での高齢者虐待をなくしていくためには、家族への支援の充実、介護施設の増設、看護・介護職員の増員と知識の向上などに手厚い対策が望まれます。都が今後具体化する高齢者虐待防止対策は、これまでとりくんできた施設における身体拘束ゼロ運動を発展させることもふくめ、家庭と施設の両方を対象にして推進することが重要だと考えますが、認識を伺います。

 高齢者虐待について、「どのようなことが虐待にあたるのか」の定義を明らかにすることも重要です。
 私の知人のAさんは、介護をしているお母さんが紙オムツをむしって部屋中ゴミだらけにしてしまうので、やむなくファスナーに鍵がついたつなぎ服を着用させました。後に、鍵付きのつなぎ服は「身体拘束」であり、虐待に通じると知ったそうです。介護の努力をしたつもりでも、実際にはお母さんを苦しめていたことがわかり、Aさん自身がつらい思いをした、と語っていました。

Q6 「高齢者虐待とはなにか」が認識できるようなガイドラインを、厚生労働省が調査した、身体的、心理的、性的、経済的、介護放棄など5つの観点にそって、策定することは虐待防止にむけての意識向上に必要です。東京都が高齢者虐待についてのガイドラインを策定するよう求めるものですが、お考えをお示しください。

 つぎに、虐待をうけた高齢者を保護するしくみと相談・通報体制の整備です。
今年7月、世田谷区は、増加する高齢者虐待に対して「人権問題として社会的な対応が必要」と対策にのりだすことを明らかにしました。虐待が深刻で、家族と本人を分離する必要があると判断した場合には、施設への短期入所やシェルターでの緊急保護を実施する考えが示されています。

Q7 現在、高齢者虐待に備えた緊急一時保護所(シェルター)の取り組みは極めて遅れています。東京都が緊急一時保護所を設置すること、合わせて世田谷区のように、実施に足を踏み出した自治体を支援することを求めます。お答えください。

 高齢者虐待の取り組みが進んでいるアメリカでは、年間40万件の報告があると報道されています。連邦レベルの法律だけでなく、ほとんどの州が独自の法律を策定しています。虐待を発見したときの通報義務は40以上の州で定められており、なかでもテキサス州においては、24時間365日、高齢者虐待の通報を受ける態勢がとられています。
 日本では、児童虐待については法の制定によって、通報のしくみがつくられました。しかし、高齢者虐待は未だ法律が制定されておらず、早期に虐待の事実を把握するのが困難であるのが現実です。
江戸川区では、関係者からの要望があったことから、介護保険担当課が家庭内の虐待についての相談、通報の窓口を設け、介護施設や病院と連携した適切な対応ができるしくみがつくられました。

Q8 現在、東京都では高齢者虐待について、相談したり、連絡をする専門性をもった窓口が設けられておらず、迅速な対応が行われにくい状態が続いています。虐待を早期に発見し、高齢者の保護、救済がすみやかに行なえるよう、東京都として「高齢者虐待相談通報センター」を設置するよう要望します。お考えはいかがでしょうか。

 最後に、高齢者虐待防止法の制定です。
 高齢者虐待防止の法律制定を求める世論が強まっています。法整備について、東京都はこれまで、「現行の老人福祉法に基づく措置や成年後見制度を活用して、虐待を受けた高齢者の保護・支援に対応していく」と言ってきました。しかし、厚生労働省の「家庭内における高齢者虐待に関する調査」によると、区市町村に寄せられた6062人の相談のうち、老人福祉法によって「高齢者虐待を理由とした措置」は97件(1.6%)、在宅介護支援センターなどの機関調査で成年後見制度を利用(相談)した人は2.5%です。制度があっても活用されていないのが実態です。
 介護の現場からは措置について、「措置は家族への説得が困難」「措置で施設入所をした場合は、行政側が本人分の費用負担を肩代わりすることになる」などの問題で、使いづらい制度であると率直な声があがっています。
 厚生労働省は、老人福祉法に基づく措置について「虐待の被害者を行政が緊急保護できる制度」とし、昨年9月の全国介護保険担当課長会議で「虐待事例では措置の実施が求められ、適切に措置を行うよう、指導の徹底を図られたい」としています。国は今のところ、老人福祉法による措置で、虐待を受けている高齢者を家族から切り離し保護する方針であり、新たな立法化は必要ないとの判断しているといわれていますが、現行の法制度のままでは、高齢者虐待防止にむけての十分な対応ができないのは明らかです。

Q9 虐待の定義、相談・通報のしくみ、関係機関のネットワークづくり、適切なケアと介護基盤整備などを総合的に推進していくうえで、高齢者虐待防止の法制化は避けて通れない問題です。東京都が強く国に要望するべき時に到っていると考えますが、いかがでしょうか。お答えください。

以 上

 

平成16年第三回都議会定例会
河野百合恵議員の文書質問に対する答弁書

質問事項
一 高齢者虐待防止について
 今後発足させる虐待防止策検討組織には、在宅介護支援センターなど現場から外部委員を招き、実践的な経験を生かした検討を行うべきだが、見解を伺う。

回答
 現在、発足に向けて準備を進めている検討組織においては、本会議でお答えしたとおり、外部委員を入れ、具体的な検討を進めていきます。

質問事項
一の2
 来年度の検討結果を待っていては、具体策が始まるのは再来年度になってしまう。検討と同時に、できることは来年度から具体化することが必要であり、予算措置も含め、答弁を求める。

回答
 高齢者虐待についての具体策は、新たに発足する検討組織において、実施時期も含めて、今後検討していきます。

質問事項
一の3
 今年4月に厚生労働省が発表した「家庭内における高齢者虐待に関する調査」における東京の実態について、どう把握し、分析しているのか伺う。

回答
 厚生労働省が発表した「家庭内における高齢者虐待に関する調査」は、都道府県別の詳細は不明だが、都を含む全国規模で行ったものであり、調査結果を参考としていきます。

質問事項
一の4
 厚生労働省の調査は家庭内の虐待である。高齢者虐待は各医療機関、介護施設などでも発生している。家庭と施設における総合的な実態調査を都が独自で行うことを求めるが、所見を伺う。

回答
 都はこれまでも、指導検査などを通じ、施設等における状況把握に努めてきました。また、家庭内の高齢者虐待については、都内の事業者等を含めた実態調査を厚生労働省が行ったところであり、都として独自に総合的な実態調査を行うことは考えていません。

質問事項
一の5
 都が今後具体化する高齢者虐待防止策は、家庭と施設の両方を対象にして推進することが重要であるが、認識を伺う。

回答
 都はこれまでも「身体拘束ゼロ運動」の中で、身体拘束廃止推進員研修や相談窓口の設置などを行い、施設における介護の質の確保及び向上に取り組んできています。今後は、新たに発足する検討組織において、区市町村や関係者等とも協力しながら、高齢者虐待に関する具体的な方策について検討を進めていきます。

質問事項
一の6
 「高齢者虐待とはなにか」が認識できるガイドラインを、身体的、心理的など五つの観点に沿って策定することは、意識向上に必要である。都がガイドラインを策定するよう求めるが、所見を伺う。

回答
 高齢者虐待の防止を進めていくには、都民の意識向上が必要であり、本会議でお答えしたとおり、新たに発足する検討組織において、都民への効果的な啓発の方法等について、検討することとしています。

質問事項
一の7
 高齢者虐待に備えた緊急一時保護所の取組は遅れている。都による緊急一時保護所の設置、実施する自治体への支援を求める。所見を伺う。

回答
 虐待を受けた高齢者の保護については、身近な自治体である区市町村が、老人福祉法に基づく措置などを活用して対応することとなっています。
 なお、区市町村における緊急一時保護などの先進的取組については、都は包括補助制度により支援しています。

質問事項
一の8
 都では高齢者虐待についての専門性を持った窓口がない。虐待を早期に発見し、高齢者の保護、救済が速やかに行えるよう、都による「高齢者虐待相談通報センター」の設置を要望する。所見を伺う。

回答
 高齢者虐待に関する基本的な対応は、住民に身近な自治体である区市町村が担うものであり、都はこれまでも、在宅介護支援センターを中心とした地域のネットワークづくりなどへの支援を行っています。
 お話しの「高齢者虐待相談通報センター」を、都として新たに設置する考えはありません。

質問事項
一の9
 現行の法制度のままでは、高齢者虐待防止に向けての十分な対応ができないのは明らかである。高齢者虐待防止の法制化について、都が強く国に要望すべきだが、所見を伺う。

回答
 都は、平成16年4月の「介護保険制度の見直しに向けた東京都からの提案」の中で、高齢者に対する虐待の通報窓口の整備や行政による関与の制度化などを、すでに国に対し提案しています。