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2012年第2回定例会文書質問趣意書

吉田信夫(杉並区選出)

一、防災対策の抜本強化について

 都政にとって、東京を直撃する地震から都民の生命、財産を守るための防災対策の強化は最優先課題となっている。そのために、東日本大震災の教訓を生かし、起こりうるあらゆる可能性を想定し、ハード、ソフトの両面での対策強化が求められている。
 しかしこれまでの都の対応や答弁では、きわめて不十分な問題が残されており、そうした個別課題ごとに都の認識と対応を伺う。

(1)河川堤防の耐震強度について
 河川堤防の耐震化は、東部低地帯をかかえる東京都にとって防災対策のなかでも重要課題である。都は、河川堤防の耐震補強について、「関東大震災時の震度に対して耐震補強を行い、一定の安全性を確保してきた」というが、国土交通省の研究機関は、これまでの構造物の耐震性の考え方について、ある程度の大きな地震にも耐えられるだとうと考えていただけであり、実際に非常に大きな地震をうけても安全性が確保できるかどうかは診断していなかったと論文でも認めている。
 レベル2タイプ1、すなわち関東大震災での東京周辺の揺れを想定した国の新しい検査指針は、つい最近つくられたばかりであり、都はこの新しい指針をふまえて、昨年12月から検査をし、これから耐震化の計画をたてる、これが実際のところである。

Q1、都は第2回定例会でわが党の質問に「一定の安全性」と答えたが、「一定」とはどういうことか。一定という言葉を使うこと自体、ある程度の安全性しかないことを認めていることではないのか。

回答 都は、これまで河川堤防などの耐震性を向上させるため、国の基準に基づき大正関東地震時の震度に対してスーパー堤防整備や堤防の耐震補強などの対策を進めてきました。完了していない区間については、民地側の地盤が満潮面より高い地域、または対策が完了している水門の内側にある地域であることから、一定の安全性を有しています。なお、平成23年3月の東日本大震災時の東京における震度は、東部低地帯の大部分で5強となっていますが、河川施設に損傷はありませんでした。

Q2、不十分な状況でありながら、十分であるかのような都民に誤解を招く表現を使うことは、震災にたいする備えを緩ませ、実際の震災のときに被害を拡大させかねないのではないか。

回答 都は、これまで国の基準に基づき、大正関東地震時の震度に対して耐震対策を進めてきました。さらに、都の防災会議が示したマグニチュード8クラスの海溝型地震等を対象とした河川施設の耐震性能の調査結果を踏まえ、新たな整備計画を策定していきます。耐震強度が十分であるとの誤解を与えるものとは考えていません。

Q3、国の研究機関も、これまで非常に大きな地震を受けても安全性が確保されているか確かめてこなかったと認めているのだから、大正関東大地震規模の地震にたいして、現在の河川堤防が耐震性を保持していると明言できないのではないか。

回答 河川施設の整備に際しては、大正関東地震等を考慮して定められた国の「河川砂防技術基準」に基づき設計を行っています。都は、これまでこの国の基準に基づき、間断なく耐震対策を推進してきており、さらに、都の防災会議が示したマグニチュード8クラスの海溝型地震等を対象とした耐震性能の調査結果を踏まえ、新たな整備計画を策定していきます。

Q4、それでも、大正関東地震規模の地震動に耐えられるとするなら、その根拠を具体的事実でしめされたい。

回答 河川施設の設計に際しては、大正関東地震等を考慮して定められた国の技術基準に基づいています。さらに、都の防災会議が示したマグニチュード8クラスの海溝型地震等を対象とした耐震性能の調査結果を踏まえ、新たな整備計画を策定していきます。

(2)中小河川の危険性について
 都は、立会川など川幅の狭い河川について、想定地震にてらして水害が発生するおそれがあり、どのように検討してきたのか、とのわが党の代表質問にたいし、「立会川など東京湾に流入する中小河川につきましては、今回想定された津波よりも高い高潮に備える対策区間とされており、おおむね安全性は確保されて」いると答弁した。しかしその根拠は示されず、きわめて疑問である。

Q5、立会川等東京湾に流入する中小河川の高潮対策は、都のどのような計画にもとづいて行われているのか。その計画はいつ策定したものか。その進捗状況はどのようになっているのか。

回答 都では、昭和34年に名古屋地方に史上最大の被害をもたらした伊勢湾台風を契機として、同台風級の高潮に対処できるよう昭和38年に東京高潮対策事業を計画し、着手しました。平成23年度末までの整備率は、93パーセントとなっています。

Q6、立会川において、高潮の河川域への遡上高は何mと想定しているのか。また、高潮の想定遡上高にたいし、河川の堤防の高さはどのように設定されているのか。

回答 立会川においては、朔望平均満潮位であるT.P.プラス1.00(A.hプラス2.10)メートルに、気圧の低下と風の吹き寄せによる海面上昇の高さである偏差2.00メートルと波打上高0.50メートルを加えたT.P.プラス3.50(A.P.プラス4.60)メートルを防潮堤の高さとしています。

Q7、今回の津波の計算では、立会川河口部で何mの津波を予想しているのか。

回答 今回の被害想定における立会川河口部周辺の津波高は、おおむねT.P.2.6メートルとなっています。

Q8、立会川の川幅は、運河の幅よりも狭まるものになる。津波の東京湾に流入する中小河川への遡上についても、シミュレーションを行うことが必要と考えるがどうか。

回答 今回の津波に関する被害想定では、専門家の最新の知見を盛り込んだ地震モデルを設定した上で、中小河川の川幅などについても可能な限り考慮して最大津波高を算出しています。今後は、こうした想定などを踏まえ、具体的な津波・高潮対策を講じていくことが重要です。お話の立会川など、東京湾に流入する中小河川にっいては、今回想定された津波よりも高い高潮に備える対策区間とされており、概ね安全性は確保されています。

(3)湾岸部の危険物対策について
 千葉、神奈川など東京湾岸には石油タンクをはじめ危険物施設が多数集中し、地震等によって破損すれば、巨大火災、燃料の湾内への流出によって、東京にも深刻な影響を及ぼす。東京湾が使用不能となり燃料の供給が止まれば、たちどころに都民生活と東京の経済に深刻な影響を及ぼすことは必至だ。
 ところが都は国の施設や地盤についての調査、検討結果をふまえ、国に対し働きかけていくとの態度をとってきましたが、すでに国は調査をおえ、昨年末に検討会報告が発表されている。

Q9、都は、国の調査結果と検討会報告をどのように評価しているのか。液状化や側方流動の危険性など地盤の状況とその対応に関しては不十分と思うが、どのように認識しているのか。

回答 平成23年12月の国の検討会報告では、現状の液状化に関する技術基準は妥当であるとしています。東日本大震災における全国の液状化による被害件数や内容を踏まえれば、この報告内容は適切であると考えられます。また、この調査結果や報告を受け、国が事業者へ施設等の再確認や安全基準の遵守を求めたことは、当面の対応としては適当なもの.と考えます。

Q10、国の検討会報告をうけて、都として、国にどのように対策を要望していくのか。

回答 これまでも九都県市では、石油タンク等に被害を及ぼす長周期地震動に関する研究や、その成果を活かした対策の推進について、国へ要望してきました。今後、九都県市においては、石油コンビナート等民間企業の減災対策の促進について、国、自治体及び事業者の役割分担を踏まえ、共同研究を行った上で実効ある対策の推進を国に対して要望していくこととしています。

Q11、国まかせの姿勢では、住民の生命と財産を守るという責任を果たせない。他県市と共同で、事業者にたいし、地盤や施設の耐震化状況と対策について報告を求めるとともに、必要に応じて直接調査を実施すべきではないか。

回答 危険物施設の構造や地盤については、石油コンビナート等災害防止法や消防法などに基づき、国が厳格な技術基準を定め、事業者は、この基準に従い安全対策を講じる責務があります。こうした取組の促進に向けて、九都県市では、国、自治体及び事業者の役割分担を踏まえた共同研究を行っていくこととしており、その中で、事業者の取組状況などについて把握していくこととしています。

(4)造成宅地対策について
 東日本大震災において、造成宅地で住宅の深刻な被害がおきており、都の被害想定も重視し、新たに人工造成地での住宅損壊の被害を想定している。したがって都として、造成宅地対策を強化することが求められている。
 都は、国によって宅地耐震化事業の抜本見直しが行われているという理由で、大規模造成宅地の調査事業を中断している。しかし、国の見直し結果は、事業の中止や廃止ではなく、事業の推進であり、そのためにガイドラインの改定を行い今年4月都道府県に通知し、さらに6月20日には全国担当者会議を開催する。

Q12、国のこうした方針を都としてどううけとめ、対応するのか。

回答 国は、東日本大震災の被害状況を踏まえ、「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドライン」を改正するとともに、「宅地耐震対策工法選定ガイドライン」を策定しましたが、宅地耐震化推進事業の進め方の抜本的見直しについては、引き続き、検討することとしています。今後、都は、国の見直し結果を踏まえ、区市町村と連携しながら、適切な対応を図っていきます。

Q13、東京都震災対策事業計画にかかげながら中断している大規模造成宅地対策を再開すべきだ。

回答 都は、これまで、国の通知を受けて、大規模盛土造成地の調査を実施してきましたが、現在、国において、宅地耐震化推進事業の進め方の抜本的な見直しが行われています。今後、国の見直し結果を踏まえ、区市町村と連携しながら、適切な対応を図っていきます。

Q14、被害想定では、今後の課題として「民間事業者等により個別開発地区の把握等による被害の全体像」の調査もあげている。どのようにすすめていくのか。

回答 「2020年の東京」計画では、住宅の耐震化率を平成32年度に95パーセント以上に向上させることとしています。都は、都営住宅については、平成32年度の耐震化率100パーセント達成に向けて、「都営住宅耐震化整備プログラム」の改定を行い、耐震化を計画的かつ着実に推進していくこととしています。

(5)都営住宅の耐震化について
 わが党は、都内住宅の耐震化のなかでも、都が管理している都営住宅の耐震化がもっとも遅れていることを指摘し、100%の耐震化計画をたてその実現に努力することを要求してきた。都も、耐震診断の結果をうけて都営住宅耐震化プログラムを改定すると答弁してきた。

Q15、都は第2回定例会で100%耐震化を2020年度としたが、なぜ2020年度か、もっと早めるべきではないか。

回答 これまでの診断結果等を踏まえ、平成24年7月、「都営住宅耐震化整備プログラム」を改定しました。

Q16、都営住宅耐震改修プログラムの改定を明らかにしてから数カ月が経過している。住民の不安解消のためにも早急に示すべきではないか。

回答 道路の液状化想定や沿道の延焼火災の道路への影響想定についてですが、今回の被害想定でも、最新の知見に基づき、各地震ごとの液状化危険度や焼失棟数を分布図として示すとともに、揺れや液状化現象によって道路周辺の家屋等が倒壊することにより通行できなくなる細街路も示しています。都としては、既に、液状化対策として、橋梁など主要構…造物の整備に当たっては、地質調査や道路橋示方書などの技術的基準に基づき、必要があると認められた場合には地盤改良や基礎部分の強化などの対策を実施してきています。また、木密地域において、延焼遮断帯を形成する主要な都市計画道路の整備を進めるとともに、消火体制の充実・強化など延焼拡大を抑止するための対策を講じています。

(6)道路災害対策について
Q17、阪神淡路大震災でも東日本大震災でも、地震動によって道路に亀裂が走り、液状化によって陥没がおきるなど、深刻な被害がおきた。前々回の想定では、道路が液状化した場合の影響を調査し、図上に示し、沿道の延焼火災によって通行不能の状態がどの地域で起きるかまで示したが、なぜ今回はこうした被害想定を行わなかったのか。
 道路の液状化想定、沿道の延焼火災の道路への影響想定を行い示すべきであり、また、その対策も検討すべきと考える。

回答 地震時の交通事故の発生に伴う被害については、科学的知見に基づき精緻に算定する手法が確立されていないことから、今回は具体的な想定を行わなかったものです。なお、発災時における交通事故の防止については、警視庁において、運転者の注意事項を盛り込んだ交通教則の徹底など、必要な対策を講じています。

Q18、また、前回の想定では、地震時の交通事故の発生やそれにともなう人的被害まで推計したにもかかわらず、今回の想定ではなぜ実施しなかったのか。発生が低いという認識か、対策は必要ないという判断か。

回答 車両火災など車両にかかる被災については、今回の被害想定においても、既に定性的に示しています。また、都としては、発災時に道路上の車両を極力抑制するために、交通規制の実施や、避難等の際に車両を使用しないよう啓発を図るなど、対策を着実に講じているところです。

Q19、震災時に懸念される通行車両の火災について、第2回定例会のわが党の代表質問にたいし、都は手法が確立されてないとの理由から想定を行っていないと答弁した。定量的想定は困難であっても、車両火災の可能性についてどのように認識しているのか。またこんご可能性の調査や対策についても検討が求められていると考えるがどうか。

回答 地震時における出火防止対策を強化することは大変重要です。このため、東京消防庁では従来から、防火防災診断、ホームページ等を通じて火気器具周辺の整理や家具類の転倒・落下・移動防止措置、感震ブレーカーの設置等を促進しています。また、都民の地震時の行動をまとめた「地震その時10のポイント」の中で、地震後の出火防止対策として、避難時のブレーカー遮断や電源復旧時における電気器具の安全確認についての周知も図っています。

(7)火災対策について
Q20、地震による火災対策のうえで、建物の不燃化促進などとともに、そもそも出火防災策を強化することが重要となっているが、どのように認識し、対策をとろうとしているのか。
阪神淡路大震災では火災の最大の原因は、地震後の通電火災である。感震ブレーカーの普及や、地震時にブレーカーを落とすとともに通電後に安易にブレーカーをあげないなどの注意点の周知をはかることも重要と考えるがどうか。

回答 地震時における出火防止対策を強化することは大変重要です。このため、東京消防庁では従来から、防火防災診断、ホームページ等を通じて火気器具周辺の整理や家具類の転倒・落下・移動防止措置、感震ブレーカーの設置等を促進しています。また、都民の地震時の行動をまとめた「地震その時10のポイント」の中で、地震後の出火防止対策として、避難時のブレーカー遮断や電源復旧時における電気器具の安全確認についての周知も図っています。

Q21、火災の発生及び延焼を防止するうえでも、また避難計画を立てるうえでも、地域ごとに危険要因等を共通認識し、事前の対策や訓練を行うことが必要と考える。そのために、地域ごとの延焼シミュレーションを住民に示すことが重要と考えるがどうか。

回答 震災時における被害を軽減するためには、都民が地域特性及び地域の危険性を正しく認識することが重要です。このため、延焼シミュレーションなどを活用し地域の出火危険や延焼危険の周知を図り、実践的な初期消火訓練などを通じて、今後とも総合的な地域の防災力向上を図っていきます。

Q22、消火活動のうえで、消防水利の確保は決定的に重要と考える。現在、消防水利の不足は何か所か。
不足分を充足するためにどのように対策をとっているのか。
また、消防水利確保のうえで、すでに足立区、杉並区で整備された深井戸からの消防用水確保は有効であり、火災危険度の高い地域を優先に整備をすすめるべきと考えるがどうか。

回答 東京消防庁では、震災時における同時多発火災や市街地大火を想定した水利整備基準を策定しており、平成24年3月末現在、概ね98パーセントの充足状況となっています。不足地域に対しては、耐震性防火水槽の整備をはじめ、自然水利等の活用を図るなど、積極的な消防水利の確保に努めています。また、深井戸については、消火用水が著しく不足する木造住宅密集地域を重点とし、平成24年度も一基整備することとしています。

以上