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質問・条例提案

2022.06.15

文書質問 公有地の計画的な拡大によるまちづくりの重要性と、公拡法のはたす役割について 和泉なおみ都議(葛飾区選出)

2022年第2回定例会で、以下の文書質問を提出しました。

令和4年第二回都議会定例会
文書質問趣意書

  提出者 和泉なおみ

質問事項
 一 公有地の計画的な拡大によるまちづくりの重要性と、公拡法のはたす役割について


一 公有地の計画的な拡大によるまちづくりの重要性と、公拡法のはたす役割について

 葛飾区奥戸にあった森永乳業東京工場は、2021年3月をもって工場を閉鎖し、64年の歴史を閉じました。6.6ヘクタールに及ぶ工場の敷地には、64年の歴史に育てられた大量の樹木があり、地域の方たちからは樹木を残してほしいという希望と共に、跡地がどのようになるのか強い関心が寄せられていました。
 葛飾区も工場跡地の活用をめざし、森永乳業と用地取得の交渉に臨んできました。
 私は、2018年第4回定例会において、森永乳業東京工場跡地の活用について文書質問を行いました。その際、都は、「規制市街地における大規模な工場跡地等は地域のまちづくりを適切に進める上で貴重な土地となりうる」として、「葛飾区から具体的な相談があれば、その内容に応じて適切に対応していきます」と答弁しています。
 公有地拡大の推進に関する法律(以下、「公拡法」という)は第4条で、一定の要件を満たす土地を譲り渡そうとする土地所有者に、自治体への届け出を義務付けています。森永乳業の土地は、この届け出義務の要件に該当します。そして、第5条で、このような土地を地方公共団体等に買い取ってほしいと希望する所有者は、買取希望の申し出をすることができます。第4条による届け出、または第5条による申し出をうけて、買取る意思のある地方公共団体等が協議を行う旨を通知したら、土地の所有者は協議を行うことを拒否できません。
 森永乳業は、2021年12月24日、公拡法第5条1項に基づき、葛飾区に買取希望の申し出を行いました。
 これを受け、葛飾区は2022年1月12日、協議開始の通知を森永乳業に行うとともに、地価公示法に定める公示価格を基準に250億円の買取希望価格を示しました。しかし、森永乳業からは700億円の買取希望価格が提示され、協議は整いませんでした。両者における買取希望価格の大きな差は、何によるものなのでしょうか。
 奥戸地域の2022年の公示価格(1平米あたり26.1万円)で計算すると、172億余円になります。葛飾区は、売買のために鑑定をした場合に想定される金額として、相当額を加算し250億円の買取希望価格を提示し、区として取得への積極的な姿勢を示しました。しかし、葛飾区の一般会計予算の3分の1に及ぶ700億円という、森永乳業の買取希望価格に、葛飾区は取得を断念せざるを得ず、協議は不調に終わりました。
 森永乳業はその直後に、CBREインベストメントマネジメント・ジャパン株式会社(以下、CBREと省略)との間で、工場跡地に土地信託を設定したうえで、CBREが当該土地において賃貸用物流施設を開発・運用するために設立する葛飾特定目的会社に信託受益権を売却しました。その売却益は650億円であると森永乳業が公表しています。
 公拡法に基づく買取協議の際に森永乳業が葛飾区に提示した700億円という金額は、信託受益権の売却価格を念頭に算出されたものではないでしょうか。
 数十年にわたる土地信託契約の運用益を基準に、公示価格の数倍にもなる売却価格が提示されれば、地方公共団体が公有地を取得するのは、事実上できなくなります。
 過去を紐解けば、東京は戦後高度経済成長期と列島改造ブーム期、バブル経済期と土地価格の大きな変動を繰り返してきました。そのたびに土地投機による狂乱的な地価の暴騰を招き、公拡法はその教訓から成立、改定が行われてきたのです。
 公有地の先買い権を法定することで、無計画な土地投機に規制をかけ、都市計画法の目的の実現を目指そうとした公拡法は、今、土地信託受益権の売却による土地価格のつり上げという、法制定当時に想定していなかった土地投機の手法によって、形骸化の危機に直面しているのではないでしょうか。
 良好な都市環境と、住民本位の健全なまちづくりの観点から、以下伺います。

1 都市計画法は第一条に、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする」とし、第二条では、「健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定める」としています。
 住民の健康で文化的な都市生活を支え、公共の福祉の増進に寄与するために、適正な制限のもとに土地の合理的な利用を図るうえで、公有地の果たす役割は、大きいと考えます。都の認識を伺います。

2 「公有地の拡大の推進に関する法律」の制定に向け、当時の国務大臣は「都市化の発展が、住宅用地をはじめ、道路、公園、緑地その他の公共用地の取得難を招き、良好な都市環境の計画的な整備を阻害する要因になっている」と指摘したうえで、「公有地の拡大の計画的な推進を図り、もって地域の秩序ある整備と公共の福祉の増進に資」する、と法案の提出理由を述べています。
 現在に至るも未だ、公有地の拡大の推進の法律の目的である、公有地の拡大の計画的な推進は、重要な意義を持っていると考えますが、都の見解を伺います。

3 跡地に物流倉庫が建設されることに、住民から「全然知らなかった」「すぐ真ん前に小学校があるのに心配」「今までもトラックが通るたびに振動が起こった。もっとひどくなるのでは」という、驚きや不安、怒りの声が寄せられています。また、「地域防災公園を造ってほしいと区に要望していた」という声もありました。森永乳業東京工場跡地のような大規模な土地が売り出される際の、街づくり、地域の環境に与える影響と住民合意について、都はどのような認識を持っていますか。

4 跡地には、多くの樹木が生い茂っており、住民から「あの樹木を切らずに残してほしい」という声も多く聞かれます。環境の点からも気候危機対策としても樹齢を重ねた樹木は守る必要があると思いますが、認識を伺います。

5 公拡法では、信託受益権も地方公共団体の先買い権の対象となるのでしょうか。また、信託受益権の売却価格を積算根拠とした売り渡し価格は、公拡法における正当な売買価格とは言えないと考えますが、いかがですか。

6 公拡法の適用を受ける土地を売却しようとする土地所有者が、信託受益権の売却価格を算出の根拠にして売却価格を吊り上げるようなことになれば、地方公共団体は公拡法に基づいて公有地を取得することは、極めて困難であり、このような手法によって公拡法の適用を回避することは、公拡法の形骸化につながります。何らかの規制が必要ではありませんか。

7 全都でこのような手法による土地の投機が進めば、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的」とした都市計画法の根幹をゆるがすことにもなりかねません。国に対して、何らかの規制を求めるべきではありませんか。

令和4年第二回都議会定例会
和泉なおみ議員の文書質問に対する答弁書

質問事項
 一 公有地の計画的な拡大によるまちづくりの重要性と、公拡法のはたす役割について
 1 住民の健康で文化的な都市生活を支え、公共の福祉の増進に寄与するために、適正な制限のもとに土地の合理的な利用を図るうえで、公有地の果たす役割は、大きいが認識を伺う。

回答
 都市計画マスタープランなどの上位計画に基づき、道路、公園などを計画的に整備するために必要な土地として確保した公有地は、都市の健全な発展と秩序ある整備の促進に資するものと考えます。

質問事項
一の2 公有地の拡大の推進の法律の目的である、公有地の拡大の計画的な推進は、重要な意義を持っているが、見解を伺う。

回答
 都市計画マスタープランなどの上位計画に基づき、道路、公園などを計画的に整備するために必要な土地を確保することは、都市の健全な発展と秩序ある整備の促進に資するものと考えます。

 
質問事項
一の3 森永乳業東京工場跡地のような大規模な土地が売り出される際の、街づくり、地域の環境に与える影響と住民合意について、どのような認識を持っているか伺う。

回答
 既成市街地における大規模な工場跡地等は、地域のまちづくりを進める上で貴重な土地となり得るものであり、その売却等に当たっては、土地所有者等において、関係法令に基づき適切な対応がなされるべきものと考えます。

質問事項
一の4 跡地には、多くの樹木が生い茂っており、住民から「あの樹木を切らずに残してほしい」という声も多く聞かれる。環境の点からも気候危機対策としても樹齢を重ねた樹木は守る必要があるが、認識を伺う。

回答 
 当該土地における施設の開発に当たっては、上位計画や関係法令等に基づき、樹木の取扱いも含め、事業者において適切に対応すべきものと考えます。

質問事項
一の5 公拡法では、信託受益権も地方公共団体の先買い権の対象となるのか。また、信託受益権の売却価格を積算根拠とした売り渡し価格は、公拡法における正当な売買価格とは言えないが、見解を伺う。

回答
 公拡法に規定する土地の先買い制度は、地方公共団体等に対して土地の買取りのための第一次的な交渉権を与えるものです。
 同法では、土地所有者が土地を有償で譲渡しようとする場合の届出義務と、地方公共団体等に対する土地の買取り希望の申出について規定されています。
 信託受益権の譲渡については、信託契約の解除や終了により不動産所有権が受益者に移転する定めがある場合は届出義務の対象となりますが、買取り希望の申出の対象とはなりません。
 また、協議において、土地の所有者が提示する価格についての規定はありません。

質問事項
一の6 土地所有者が、信託受益権の売却価格を算出の根拠にして売却価格を吊り上げるようなことになれば、地方公共団体は公拡法に基づいて公有地を取得することは、極めて困難であり、このような手法によって公拡法の適用を回避することは、公拡法の形骸化につながる。何らかの規制が必要であるが、見解を伺う。

回答 
 公拡法に規定する土地の先買い制度は、地方公共団体等に対して土地の買取りのための第一次的な交渉権を与えるものであり、土地所有者が提示する価格については規定されていません。
 なお、都市計画事業としての用地取得等、土地収用法が適用される場合は、近傍の類似した土地の取引価格等を考慮して算定した価格で土地を取得することとされています。

質問事項
一の7 全都でこのような手法による土地の投機が進めば、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的」とした都市計画法の根幹をゆるがすことにもなりかねない。国に対して、何らかの規制を求めるべきだが、見解を伺う。

回答
 公拡法では、公有地の拡大の計画的な推進を図るため、土地を有償で譲渡しようとする場合の届出の義務化や一定期間の譲渡制限など、一定の制限等を課しています。